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入学式は悪夢のように 1
広々とした体育館には新入生がずらりと並んでいる。
どの生徒の制服も真新しく肩口や裾に歪みがない。
オークルのジャケットにそれより少し濃いスラックス。一年生のネクタイはオリーブ色だ。ネクタイにはAを象った刺繍が施されている。胸ポケットのエンブレムはなにを象徴しているのかよくわからないが、鳴はなんとなくかっこいいこの制服が気に入っていた。
お坊ちゃま学校だけあって制服一式はかなりの金額だったらしい。値段を知った母親は腰を抜かしかけていたが、幸いなことに祖父が全額支払ってくれたため家計に影響はなかった。
(どの子もみんな初々しいなあ)
鳴は緊張気味の同級生たちの顔を微笑ましい気持ちでながめた。自分自身も初々しいはずの新入生なのだが、そのことは鳴の念頭にはないらしい。
男子校なのは哀しいけれど、おまけに全寮制だから実家のマルガリータに会えなくなるのは淋しいけれど、泣こうが笑おうがここで三年間を過ごさなくてはならないのだ。だったらせめて陽気でいようと、鳴はここへくる前に決心していた。
『今から第百回、私立春夏冬学園入学式を開式いたします』
甲高い女の声がスピーカーから響き、ざわついていた体育館が静寂に包まれた。
名門校の入学式はどのようなものなのか。鳴はわくわくしながら校長や理事長やPTA会長の話を聞いていたが、徐々にテンションが下がってきた。
鳴がこれまで経験してきた小学校や中学のそれと似たり寄ったりだったからだ。
(つっまんないなあ……。オジサンたちのお話を長々と連続で聞きたい人間がこの世の中にいるだろうか。いや、いない。かっこ反語。スピーチと女の子のスカートは短いほうがいいっていうことわざを校長先生たちは知らないのかな。あれ、ことわざじゃなかったっけ? まあ、いいや)
ふぁああああ、と噛み殺そうともせずに欠伸をした時だった。
『では、これからキングたちによる奴隷の選定を行います。新入生、一同起立』
鳴をのぞく新入生たちは訓練された軍人のようにパイプ椅子からさっと立ち上がった。
「えっ? 今なんて言った?」
思わずアナウンスに訊ねたが答えが返ってくるわけもない。
キングだの奴隷だの日常ではあまり耳にしない言葉が聞こえたような気がする。聞き違えたのか、それとも眠気のあまり一瞬夢を見ていたのか。
体育館の空気がざわっと揺れた。
壇上へ続く短い階段を制服姿の男子たちが登っていく。男子生徒は全員で四人。上級生なのは大人びた顔つきと色の違うネクタイを見ればわかった。
いったいこれからなにが起ころうとしているのか。
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