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入学式は悪夢のように 2

「……ああ、桜さんだ。素敵だなあ」 「如月さん、お美しい……」  僕を、俺を奴隷に選んでくれないかなあ。そんな呟きがあちこちから聞こえてきて、鳴はぎょっとした。 「えっ……春夏冬学園ってまさかM男子奴隷の養成所……!?」  鳴は周囲をきょろきょろと見まわしたが、誰もが壇上へうっとりした眼差しを向けている。  壇上に立った四人の生徒は確かに全員見栄えがいい。が、鳴は男の容色などどうでもよかった。いくら綺麗でも男とつき合うわけじゃないんだから。 「新入生のみなさん、こんにちは。今年は僕たち四人が生徒会役員のトップ4をやることになりました。通称キング、って奴ね。中等部からの持ち上がりの人がほとんどだから、みんなもうわかってるよね? じゃあ、奴隷選定の前にまずはかるーく自己紹介からいきますね」  マイクの前に立ってにこやかに微笑んだのは、ウェーブのかかった髪をひとつに束ねている細身の男子生徒だ。かっこいいというよりも綺麗といったほうがしっくりくる。左目の下のほくろが妙な色気を醸し出している男子生徒だ。  ネクタイの色はスチールグレイ。スチールグレイは三年生の色だったはずだ。 「じゃあ、まずは僕から自己紹介させていただきます。僕は三年生の如月遊理(きさらぎ ゆうり)。生徒会では副会長を務めています。趣味は映画鑑賞。得意な科目は英語と美術、かな。まあ、だいたいなんでも得意だけどね。じゃあ次は、そうだな、乙丸」  遊理の後ろにならんでいる三人の中でもっとも不良じみた生徒が一歩前に出た。  ツンツンに逆立った髪は金髪で、おまけに耳にはピアスがいくつも刺さっている。ネクタイは外され、シャツの釦も上から三つははめていない。襟ぐりから鎖骨がのぞいているが、視力が2.0の鳴はその上に蝶々らしきタトゥーが入っているのに気づいてしまった。 「……乙丸翼(おとまる つばさ)。二年。生徒会では会計長。よろしく」  愛想も素っ気もない自己紹介だった。いや、そんなことはこの際どうでもいい。 (この学校の校則ってどうなってんの!? 金髪とかピアスとかタトゥーとか――っていうか、奴隷ってなに!?)  鳴の盛大なる疑問に答える者は誰ひとりとしていなかった。声に出していないのだから当たり前だが。 「じゃあ、次は一ノ瀬」  遊理に促されて前へ出たのは浅黒い肌をした短髪の少年だった。四人の中でいちばん背が高く、横幅もしっかりしている。いかにも体育会系といった感じだ。 「えっと、みんなこんにちは。一ノ瀬太陽(いちのせ たいよう)です。三年生です。生徒会では書記長をやってます。俺、字、汚いんだけどね。生徒会以外にもサッカー部にも入ってます。サッカー部員は常時募集中だから、奴隷希望で選ばれなかった人もこっちに入ってくれたら嬉しいな。あ、入部テストがあるから希望者全員入れるわけじゃないけどね。今日から卒業式までの一年間、どうぞよろしく」  太陽は白い歯を見せて笑った。炭酸飲料のCMに出られそうなくらい爽やかな笑顔だ。そんな爽やかな一ノ瀬もやはり奴隷募集中らしい。

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