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入学式は悪夢のように 3
突然の奴隷選定大会に途惑っているのはどうやら鳴ひとりだけのようだ。周囲の生徒たちはキングたちの言葉にいちいち歓声をあげたり、惚れ惚れした溜息を吐いたりしている。
なんだか異次元に迷い込んでしまった気分だ。
(おうちに帰りたいよお……! 母さん、お父さん、じいちゃん、それにマルガリータ)
小さいながらも平凡で平和な我が家が懐かしい。まさか入学一日目にしてホームシックになるとは思いもしなかった。
「最後は桜だね」
遊理が桜と名前を呼ぶと、体育館の空気がふいに変わった。もっと熱っぽく、もっと異様な空気が体育館全体にわっと立ち昇る。
桜と呼ばれたのは黒猫みたいな少年だった。いや、黒豹と言ったほうが的確かもしれない。
それほど長身ではないものの頭が小さく、手足がすらりと伸びているので、実際より背が高く見える。杏の形をした瞳は炯々とした光を宿し、それが猫科の肉食獣を思わせた。
顔立ちは美術品のように整っている。綺麗とかっこいいの狭間にある容貌。
桜は無表情に演台の前に立つと、新入生たちをざっと見まわした。整うだけ整った顔にふわりと笑顔が浮かぶ。それだけで新入生たちは感嘆の溜息を吐いた。
「新入生諸君、初めまして。生徒会長の桜雪生(さくら ゆきお)だ。去年に引き続き生徒会長を担うことになった。学年は二年、得意科目は全教科だ。困ったことがあれば生徒会室まで訊ねてくるように。ひとりで悩みを抱えこむような真似はしないことだ。今日から一年間よろしく。……如月、自己紹介のあとはすぐに奴隷の選定に移るんだったな」
「ああ、そうだよ」
遊理を振り返った雪生はふたたび新入生たちを見下ろした。雪生と目が合う。黒豹とまともに視線がぶつかったような気がして、鳴は身を竦めた。鳴を見つめながら雪生が薄く笑う。
(笑われるほど変な顔はしてないつもりなのに。そりゃあ、あなたに比べたら月とゼニガメかもしれないけどさ……)
「桜さんに選ばれたい……。お願いです、俺を選んで」
鳴のすぐ隣の生徒が熱に浮かされたように呟く。奴隷に選ばれてどうしようというのだ。壇上の四人もおかしいが新入生たちもどうかしている。
「じゃあ、奴隷の選定は俺からいかせてもらう。俺はもう誰にするのか決めてるからな」
不敵に笑った雪生に遊理はびっくりした様子だった。
「えっ、いつの間に? 桜は奴隷を選ぶためのゲームはしないつもり?」
「必要ない」
体育館のざわめきが激しくなる。
一拍の間を置いて雪生は言った。
「相馬鳴。おまえは今日から俺の奴隷だ」
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