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ルームメイトのご命令 1

 春夏冬学園の寮は二人部屋と四人部屋に分かれている。入寮の案内書には一年生は四人部屋が与えられると書かれていた。  磨かれた廊下を歩き、指定された部屋へ向かう。ルームメイトはどんな人たちだろう。  鳴が雪生の奴隷に選ばれたことを恨んでいないだろうか。ルームメイトの中に雪生の奴隷志願者がいたとしたら――寮生活の未来は真っ暗だ。  恐る恐るドアを開けると、先に部屋に到着していた生徒が振り返った。 「あ、どうも。初めまして」  大人しそうな生徒だった。小柄で黒縁の眼鏡をかけている。鳴はあまり特徴のない地味な顔立ちにシンパシーを覚えた。我が平凡族の同胞に間違いない。  部屋にいるのは彼ひとりのようだった。 「え、あ、初めまして」  鳴は吃りながら返事をした。入学式からここへ着くまでの間、敵意と悪意のこもった視線と言葉を浴び続けていたので、いたって普通な反応にかえって途惑ってしまったのだ。  部屋は十畳ほどの広さで、二段ベッドが左右に置かれている。その他にあるのは学習机と本棚くらいだ。  清潔だが殺風景な光景だった。 「さっきは大変だったね。相馬君って受験組なんでしょう? キングや奴隷制度のことをまったく知らなかったみたいだけど」 「うん、ちーっとも知らなかったよ。っていうか、なんなの奴隷とかキングとか。そんなことが許されるの? せんせーたちはどうしてなんにも言わないの!?」  まともに話を聞いてくれそうな相手の登場に、疑問と怒りが湧き上がる。 「奴隷制度はうちの昔からの風習だからね。それに奴隷に選ばれるのは庶民にとって光栄なことだから」  奴隷が光栄? 鳴の知らないうちに光栄の意味が変わってしまったとしか思えない。 「……奴隷を辞退することって」 「うーん、前例がないんじゃないかな。桜先輩の態度からすると、相馬君を解放する気はなさそうだし」 「誰かに変わってもらうことは」 「それは無理だよ。奴隷を選ぶ権利があるのはキングだけだから」  つまり奴隷から逃れるには退学するしかないということだ。  学校を辞めて家に帰ったら、就職活動がにこにこ笑顔で待ち受けている。奴隷と就職。脳内の天秤にかけてみたが、左右の秤はピタリと釣り合っている。どっちも等しく激しく嫌だ。  とりあえず荷物を片づけよう。今後の人生はその後ゆっくり考えよう。 「えっと、俺の荷物はどこかな。家から送った荷物が届いてるはずだけど」 「あ、相馬君の荷物なら上級生たちが持っていったよ」 「えっ!?」 「七階の八号室までくるようにって言づけを頼まれてるんだ。たぶん桜先輩からだと思うよ」  まさか奴隷に衣服など不要として捨てるつもりだろうか。  鳴は眼鏡のルームメイトにお礼を言うと、慌てて部屋を飛び出した。

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