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ルームメイトのご命令 2

 全速力で廊下を走る。送った荷物を捨てられてしまったら、しばらくはこの制服一枚で過ごさなくてはならなくなる。いくら傲岸不遜な生徒会長でもそこまでするだろうか、という思いも過ぎりはしたが、まともな常識がありそうなタイプにも見えなかった。奴隷どうこう言っている時点でじゅうぶん過ぎるほど非常識だ。  階段を一気に七階まで駆け上る。 「おい、そこのおまえ、止まれ」  七階の廊下を駆け出そうとした瞬間、厳しい声に呼び止められた。  長身でがっしりした身体つきの男子生徒が鳴の手前で仁王立ちしている。 「俺になにか用ですか? すみませんが急いでるんです」 「おまえ、新入生だな。七階へ足を踏み入れていいのはキングとその親衛隊だけだ。わかったらさっさと引き返せ」  寮の中なのに足を踏み入れるなとはどういうことだ。  鳴はあたりを見まわした。焦るあまり気づかなかったが、七階は他の階とはまるで様子が違っている。  まずホテルのような絨毯が廊下に敷かれているし、部屋の数も少ないらしくドアとドアの間隔が広い。それに下の階は廊下の両側にドアがならんでいたのに、この階は片側だけだ。ドアの反対側は大きなアーチ窓になっている。 (なんだか外国のお高いホテルみたいだなあ。泊まったことはないけどテレビで見たぞ、こんな感じの建物) 「えっと、あのっ、俺、八号室にいかないといけないんです。っていうか、いくように言われてて」  仁王のような少年の眉がぐっと寄る。怖い。魔除けになりそうな顔つきだ。 「おまえのような新入生が桜さんの部屋になんの用だ」 「荷物を取り返しにいくんです。取り返さないと着替えも間食用のお菓子も暇つぶしのマンガもないんです」  鳴は必死になって訴えたが、仁王は鼻先であしらった。 「桜さんが人の荷物を盗んだりするわけない。嘘を吐くならもっと上手い嘘を吐くんだな」 「仁王にかけて嘘じゃないです! お願いです、信じてください!」  ほとんど縋りつかんばかりになった時だった。 「新久(あらく)、なにをやってるの」  聞き覚えのある声が聞こえたと思ったら、先ほど壇上で見た生徒会役員のひとり、如月遊理が廊下の奥から姿を現した。 「この新入生が七階に侵入してきたんです。追い返そうとしたんですがしつこくて。おい、おまえ、さっさと自室にもどれ」  遊理は鳴をちらりとながめた。その目つきには好意は欠片もなく、しつこい水垢を見るような眼差しだった。 「ああ、相馬君か。桜に呼ばれたんだね。僕が部屋まで案内するよ」 「えっ、如月さん、こいつは――」  遊理は嘲笑うような笑みを浮かべて新久を、次に鳴を見た。 「これが今シーズンの桜の奴隷だよ」

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