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ルームメイトのご命令 3

 遊理についておいでと言われた鳴は素直に従った。生徒会副会長が鳴に対して悪感情を抱いているのは明らかだったが、とにかく雪生の元へいかなくては。 「相馬君は中等部からの持ち上がりじゃなくて受験組だったよね。うちは受験組って少人数しか取らないんだけど、なんだってまたうちを受験したの?」  鳴と並んで歩きながら遊理が訊いてきた。 「祖父に勧められたんです。祖父の親しい友人がここの卒業生だったそうで、とてもいい学校だからと」  祖父は奴隷制度のことを知っていたんだろうか。祖父が卒業してからできた制度だと思いたい。もしも知っていながら鳴に勧めた(というよりも押しつけた)のだとしたら、祖父不信に陥ってしまいそうだ。 「桜とは前からの知り合いだったの?」 「いえ、初対面です」  そういえばどうして雪生は鳴を奴隷に指名したんだろう。鳴の名前まで知っていたみたいだし。  それに奴隷は十人まで選べるみたいなのに、鳴ひとりしか選ぼうとしなかった。鳴としてはぜひとも残りの九人も選んで欲しかった。奴隷から逃れられないならせめて苦楽を分かちあう仲間が欲しい。  遊理の瞳に冷ややかな光が宿る。 「初対面なのに君を奴隷に選んだ、って?」  鳴の言葉を疑っている科白だった。疑われようがどうしようが事実だからしかたがない。どうして鳴を選んだのかなんて、鳴のほうが訊きたいくらいだ。 「桜の部屋はここだよ」  案内されたのは校長室か理事長室のような重厚なドアの前だった。 「相馬くん、君はここでかなり苦労すると思うよ。今日で大勢敵を作ったし、奴隷に選ばれたのが君ひとりだと知ったら、二年や三年の中にも荒れる子が出てくるだろうね」  遊理はそれを期待しているかのように微笑むと、軽く手を振って立ち去った。  入寮一日目にして学園は完全なアウェーとなってしまった。いったいこれからの三年間をどう過ごせばいいのか。考えると胃がしくしく痛くなってくる。  それもこれも元凶は桜雪生。名前だけは儚げな黒豹めいた先輩のせいだ。  鳴は怒りをこめて重々しい扉をノックした。 「入れ」  返事はすぐにあった。 「生徒会長! 俺の荷物を返してください! 生徒会長だかキングだか知りませんけど、人の物を盗むのは犯罪です! ……って、なんなんだこの部屋は!」  文句を大声で言いながら飛びこんだ鳴だったが、部屋の光景を目にした途端、絶句した。

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