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ルームメイトのご命令 5

「それほんとうですね! 嘘じゃないですね! ちゃんと約束してください!」  鳴が右手の小指を顔の前に差し出すと、今度は雪生が目を瞠った。 「指切りしましょう。約束を忘れないように」 「子供か」  つっこみながらも小指を差し出して絡めてくる。綺麗な人は指の形まで綺麗なんだな、と鳴は妙なことに感心した。 「ゆびきりげんまんうそついたらはりせんぼんのーます。のますったらのーます。ゆびきった」  契約は完了した。あとは雪生が鳴を奴隷に選んだ理由を探し出すだけだ。  非凡過ぎるあまり平凡な鳴がものめずらしく映ったんだろうか。あるいは昔いじめられていた相手に似ているから鳴を虐げて恨みを晴らそうと思ったのか。なんとなく顔が気に食わないだけ、という可能性もある。  鳴は思いついた理由を次々と挙げていこうとした。が、それを制するように雪生が言った。 「ただし回答のチャンスは三回までだ。思いつきで言っただけのことが当たったら面白くないからな」 「たった三回!? せめて百回にしてください!」 「せめてという数字か」  雪生の言った通り思いつきで挙げていけばいつかは当たるだろうと思っていたのだが、たった三回しかチャンスがないのでは熟考の上で回答しなくては。 「とりあえず荷物を片づけろ。話はそれから聞いてやる」  しょうがないので送られてきた荷物を片づけることにする。  雪生が鳴を奴隷に選んだ理由。いや、その前に奴隷っていったいなにをさせられるんだろう。奴隷という響きからは鞭でしばかれるとか、半裸で巨大な石臼を延々と回し続けるとか、そんなイメージしか思い浮かばない。 「あの……生徒会長……」 「その呼びかたは気に食わないな」  雪生はソファーに仰向けに寝転がって文庫本を読んでいたが、鳴に声をかけられると顔をこちらへ向けた。 「えっ、じゃあ先輩、ですか?」  しかし、雪生は無表情に鳴を見つめるだけで返事もしない。 「桜さん、桜様、キング」  だめだ。返事がない。 「えーっと、王様、ご主人様、大統領、お殿様、お代官様」  雪生はたまらずといったようにぶっと吹き出した。 「なあんだ、お代官様がよかったんですね」  案外時代劇のファンなのかもしれない。人は見かけによらないものだ。 「馬鹿、違う。おまえが真顔でアホなことを言うから笑っただけだ。……雪生でいい」 「雪生……さん? あ、様のほうがいいですか」 「さんも様もいらない」  雪生はさらっと言ったが、同学年ならともかく出会ったばかりの先輩を呼び捨てにはしにくい。だいたい自分たちの関係は奴隷と主人ではないのか。 「ほら、呼んでみろ」 「雪生……」  呼んでみろと言われて呼ぶのはなんだかすごく照れるものがある。相手が芸能人顔負けの美形だからかもしれないが。  雪生は目許を和らげて微笑むと、それでいい、と満足げに呟いた。  鳴は思わず心臓の上を押さえた。獰猛な黒豹がふいに身体をすり寄せて甘えてきた。そんな感じがした。 (この人って……ものすっごい女たらしかも……)  ちょっと微笑まれただけで男の鳴でも胸がドキドキしてしまったのだ。女の子だったらひとたまりもないだろう。

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