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ルームメイトのご命令 6

「あのう、奴隷っていったいなにをさせられるんですか……?」  それが最大にして最重要の問題だ。  部屋の掃除やマッサージくらいなら、この際喜んで引き受けよう。  だがしかし、鞭でしばかれたり縄でボンレスハムみたいに縛られたり、あるいは自分の体重ほどもある石を延々と運ばされるようなら、退学して就職することも真剣に検討しなくては。 「それはキング次第だ。キングによって奴隷に与えられる役割はかなり違う」 「生徒会長、じゃなくって雪生……の場合は?」 「すぐにわかる。どうせ一度に説明してもおまえの頭じゃ覚えきれないだろ」  確かにそれほど出来のいい頭ではないが、端から説明を放棄するのはいかがなものか。 「あの、ひょっとして……鞭でしばかれたり、おもーい石をひたすら運ばされたりとか……?」 「なんだ、鞭を打たれるのが趣味なのか? そうだな、馬のかわりにおまえを走らせるのも面白いかもな。じゃあ、さっそくおまえ用の鞍と銜(はみ)を取り寄せるとするか」 「いやっ、そんなもの取り寄せなくていいですから!」  鳴の言った鞭と雪生の鞭とでは意味に大きな違いがあるが、SMごっこだろうがお馬さんごっこだろうが鞭でしばかれるのはゴメンである。 「遠慮するな。そうだな、おまえならブリティッシュよりウエスタンのほうがまだ似合うかな」 「ティッシュペーパーだろうがウエストだろうが、どっちもいりませんから! じゃ、じゃあやっぱり石のほうですか……?」 「石の意味がよくわからないが、石を運ぶのが趣味なら巨大な石を用意するぞ。俺は奴隷思いの主人だからな」 「いえっ、石がないならそれで大丈夫です! 石なんてあっても邪魔になるだけですもんね。石だけに。なーんちゃって、あっはっは」 「どこも石にかかっていないぞ」 「あっはっは……」  鞭でも石でもないとすれば、精神的な苦痛を与えられるタイプの奴隷だろうか。奴隷の世界もなかなか奥が深いようだ。 「おまえに与える最初の仕事は……そうだな、お茶でも淹れてもらおうか」 「お、お、お茶!?」  まさかそんなありきたりの仕事を振られるとは思ってもみなかった。声が思いっきり裏返ってしまった。 「お茶くらいアホな庶民のおまえでも知ってるだろ。奥のキッチンに紅茶の缶がおいてある。リーフティーだけど淹れかたはわかるな?」 「お茶くらいアホな庶民でも知ってます! でも、リーフティーは言葉の意味からして知りません!」 「……そうか、庶民はリーフティーも知らないのか。勉強になった」  雪生はマジメくさった顔で呟くと、ソファーからすっと立ち上がった。寝そべっていた黒豹が立ち上がるような優雅で滑らかな動きだった。 「リーフティーの淹れかたを教えてやる。お茶くらい淹れられるようにならなくては、俺の奴隷は務まらないぞ」 「むしろ務めたくないんですけど」 「その口の利きかたも気に食わないな」  雪生は鳴を冷ややかな目で見つめた。真正面から向かい合うと、雪生に幾分見下ろされる形になる。 「務めたくないのでごじゃりまするが」 「どこのインチキ公家だ、おまえは。そうじゃない。敬語はいらないと言ってるんだ」 「えっ!? いや、でも」  よっぽど慣れ親しんだ先輩ならまだしも、初対面の上にこれほど尊大な態度の先輩にタメ口なんてとても利けない。 「先輩なんですから敬語じゃないと」 「おまえ、俺を尊敬してるのか?」 「いえ、ちっとも」  しまった。本音がつるっと口から出てしまった。

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