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最初の晩餐 3
「……なんだよ、それ。桜、いったいこの庶民とどういう関係なわけ? だいたいおかしいだろ。奴隷をたったひとりしか選ばないし、それも受験組から選ぶなんて。おまけに呼び捨てを許しただって?」
「受験組は俺も同じだけどな」
「桜とこの庶民とじゃ、受験組でも全然意味が違うだろ。はっきり言って、僕は桜の奴隷選定を認めてないからね」
遊理はきつい眼差しで雪生を睨みつけたが、雪生は我関せずといった態度で椅子に腰を下ろした。
「鳴、隣に座れ」
遊理の目が鳴に向く。その瞳には怒りと蔑みが綯い交ぜになった光が浮かんでいる。
俺がいったいなにをしたって言うんだ、と叫びたい気持ちでいっぱいの鳴だったが、しょうがなく雪生の隣に腰を下ろした。
「……ご馳走様」
遊理はナプキンで口を拭うと椅子から立ち上がった。
「如月、まだたくさん残ってるぞ」
太陽が窘めたが、
「食欲が失せた」
それだけ言うと、最後に鳴をひと睨みしてから大股に立ち去った。
話し声でにぎやかな食堂の中、鳴たちのテーブルの上にだけ沈黙が下りる。
「……なんかすみません。俺のせいでおかしな空気になっちゃって」
すべては雪生のせいだ、という思いをこめて隣の主人を睨めつけたが、雪生はしれっとした表情だ。
「相馬君は悪くないよ。悪いのは君のご主人様、だろ?」
「はい、ほんとうにそのとおりです」
力強くうなずくと、横から伸びてきた手にまたもや頬を引っ張られた。
「だから痛いって! ほんとのことじゃないか!」
「奴隷なら主人を庇うものだ」
入学式から今までの間、雪生のせいでさんざんな目に遭っているのだ。盾にすることはあっても庇うわけがない。
「仲が良いね、ふたりとも。ひょっとして前からの知り合い?」
「いえ、会うのは今日が初めてです」
「そうなの? 桜は初対面の後輩を奴隷に選んだ、ってこと? まさかね」
太陽は手の甲に顎をのせて、真向かいに座っている雪生を見つめた。
「どうして相馬君を奴隷に選んだんだ? 聞かせてくれてもいいだろ」
鳴は固唾を呑んで成り行きを見守った。雪生が鳴を選んだ理由がわかれば、鳴はめでたく奴隷から解放される。
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