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最初の晩餐 4
「それは最重要機密事項だ」
鳴の期待を裏切るがごとく、いともあっさりとした返事だった。
「え、ええー、キング仲間くらいには話してもいいんじゃないかなー」
「おまえの目の前で話すほど俺がマヌケに見えるのか?」
雪生をマヌケだとは思っていないが、人間誰しもついうっかり口を滑らせることはある。今の鳴は一縷の望みだろうが藁だろうが、縋るものがあればなんだろうと縋るつもりだった。
「あ、じゃあ、俺は耳を塞いでいるから、はいどーぞ」
「一ノ瀬、春の球技大会だけど、例年通りに進めていいか? サッカーとバスケとバレー。他にもうひとつ加えたいが、メジャーな球技となるとこれくらいか」
「ちょっと! 俺の話ちゃんと聞いてる?」
鳴は耳を塞いだ格好で文句を言ったが、
「聞こえてるじゃないか」
世にも冷ややかな一瞥をくらってしまった。
テーブルに明るい笑い声が響いた。向かいの席へ目をやると、太陽が腹を抱えて笑っている。
「桜が相馬君を選んだ理由、わかったよ」
「えっ! ほ、ほんとに!? いったいどんな理由ですか?」
「それは俺から聞くよりも、君自身が見つけ出したほうがいいと思うよ」
鳴はテーブルに身を乗り出して訊ねたのに、返ってきた言葉は無情だった。
「料理がきたぞ。腰を椅子にもどせ」
雪生の言葉に視線を向けると、黒くて長いエプロンを腰に巻いた給仕がテーブルに皿を置くところだった。
皿にのっているのはとても高校の学食とは思えない。美しく繊細な盛りつけがなされている。
「さすがはブルジョワ高校……。親から搾取しているだけのことはある」
鳴が思わず呟くと、太陽はまたぶっと吹き出した。いたって素直な感想で、ギャグのつもりはこれっぽっちもなかったのに。
「ナイフとフォークの使いかたはわかるか? ナイフで切って、フォークで刺すんだ」
「……あんた、俺を馬鹿だと思ってるでしょ」
「馬鹿だと思ってるわけじゃない。おまえは馬鹿なんだ」
眉ひとつ動かさずによくもまあそれだけ毒が吐けるものだ。毒を外に吐き出しているからこれほど綺麗でいられるのかもしれない。
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