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最初の晩餐 5
「太陽、これ食ってもいいか?」
無言でディナーを食べ続けていた翼が、ふいに口を開いた。隣へ目を向けると、四、五枚の皿がすでに空になっている。
「これ」と言いながら目で示したのは、遊理が残した料理たちだ。白い大きな皿には半分食べかけのステーキらしきものが、別の皿にはやはり食べかけのパンやサラダが残されている。
鳴がこんな食べかたをしようものなら、祖父に一喝された上に三日間夕食抜きの刑をくらうだろう。
「ああ、食べろ食べろ。食べ物を残すと罰が当たる」
太陽が翼の前に皿を差し出すと、翼は無言で残りの料理を食べ始めた。不器用なナイフ使いながらみるみる間にステーキとパンが減っていく。野菜はあまり好きではないのか、サラダだけ減りが遅い。
鳴は唖然として隣の席の翼を見つめた。
翼は大きく襟ぐりの開いたガーゼシャツを着ているが、そこからのぞく鎖骨はくっきりと浮かんでいる。痩せた身体にそぐわない健啖家ぶりだ。
「食うか?」
鳴の視線を勘違いしたらしく、ひと口サイズに切られたステーキをフォークに刺して差し出してきた。
「えっ!? いやっ、だ、大丈夫です」
鳴は慌てて断った。全然食べ足りていない様子の翼からわけてもらうのは気が引ける。
(乙丸さんって掴みどころのない人だな。すごく無口みたいだし。金髪でタトゥーも入ってるから怖い人かなって思ったけど、でも、悪い人じゃなさそうだな)
食べ物をくれる人に悪い人はいない、というのが鳴の持論だ。
「おまえが物欲しそうに見ているからだ。足りそうにないなら好きなものを追加しろ」
「……雪生にも長所があったんだ。気前がいいっていう長所が――って、いててて! 痛い!」
長い指に全力で頬を抓られた。そろそろ頬が千切れるんじゃないだろうか。
夕食はつつがなく終わった。
雪生と太陽は生徒会の話題に終始し、翼はときどきそれに相槌を打つ。門外漢の鳴はそれを聞くともなしに聞きながら、無言で料理を食べるだけだった。
部屋に帰ってくるなりベッドにダイブする。
「……苦しい…食べすぎた……」
「欲張って食べるからだ」
鳴はあの後、オムライスとハンバーグセットを追加注文した。いくら学食の食事が美味しく、いくらただでもちょっとやりすぎたかもしれない。
「風呂に入る前にベッドに転がるな。布団が汚れる」
雪生は鳴をひょいとつまみ上げると、ベッドから下ろした。いろいろな意味で人間あつかいされていない気がする。
「さっさと風呂に入れ。その後は自習時間だ。奴隷は試験で五十位以内に入る義務があるが、おまえには十位以内に入ってもらう」
「はっはっはっ、またまたご冗談を」
鳴は手を上下にひらひらさせながら笑ったが、雪生はくすりともしなかった。
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