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ご主人様は友達がいない 2

 雪生は昨夜の自習時間中ずっと鳴の勉強をみていた。  罵倒されながらの勉強はできることならご勘弁いただきたかったし、鳴のために雪生の自習時間がなくなってしまうのが申し訳なくもある。 「俺に予習復習は必要ない。ここに入学したのは勉学のためじゃないからな」 「勉学のためじゃないって……。じゃあ、なんのために高校に入ったんだよ」 「ここの理事長に頼まれたんだ。これからの経営のために内側からの観点でレポートを書いて欲しいと」  それにしたってたった三年間しかない高校生活だ。レポートのためだけに青春を費やすなんて馬鹿げている。 「でも、大学受験だってあるわけだし、まったく勉強しないわけにもいかないでしょ」 「大学ならもう卒業している」  雪生はあっさり言った。 「いやいやいや、いま高校生なのに大卒とか意味わかんないから」 「ああ、おまえは知らないか。俺は十五歳までアメリカにいたんだ。アメリカは大学によっては学力さえあれば何歳でも入れるからな。大学は十四の時に卒業した。この学園に入学したのは祖父を通じて理事長に頼まれたからだ」  鳴はぽかんとして雪生の話を聞いていた。  偏差値の高いこの学園で生徒会長に選ばれたくらいだ。口は悪いが教えかたは上手かったし、きっと頭はかなりいいんだろうと思ってはいた。  が、雪生の知的レベルは鳴の想像を遥かに超えていた。 「どうだ、少しは俺を尊敬したか」  ふふん、と言わんばかりのドヤ顔で鳴を見てくる。そういう表情すら魅力的なんだから美形は得だ。 「いや、凄いとは思うけど尊敬までは」 どちらかと言うと、たった一度しかない青春をそんなにも生き急がなくても、というのが正直な感想だ。 「おまえはほんとうに可愛げがないな」  今度は雪生がムッとした表情になった。子供じみた表情をすると、尊大に振る舞っていてもしょせんは鳴とひとつ違うだけの少年なのだ、と実感する。 「ほら、さっさとテキストを開け」 「……はいはい、あっ、わかった!」  椅子に腰を下ろそうとした時だった。鳴の頭に天啓のようにひとつの考えが降り立った。 「なんだ、自分の愚かさがようやくわかったのか」 「そうそう、俺ってほんとに愚かだなーって――って、違う! そうじゃなくて、俺が奴隷に選ばれた理由だよ!」  雪生はハッとした様子で鳴を見た。その口許に不思議な笑みが浮かぶ。馬鹿にしているようななにかを期待しているような。 「たぶん間違っていると思うが言ってみろ」  雪生は椅子に腰を下ろしながら言った。 「ああ、言うさ。言いますとも。……俺が奴隷に選ばれた理由、それは――

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