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始業式も悪夢のように 1

 自習時間が終わると、鳴は雪生と共に食堂へ向かった。  昨日と同じくキングたち専用のテーブルに座らされたが、遊理は毛虫を見るような一瞥を送ってきただけで、特に文句は言わなかった。おはようございます、の挨拶はまるっと無視されてしまったが、それくらいはどうでもいいことだ。 「今日は始業式だから、やることは自己紹介や席決めくらいだ。終わったらおまえのクラスまで迎えにいってやる。勝手に帰るなよ。生徒会の仕事があるからな」  寮を出て、学園までの十分ほどの道を歩きながら、雪生が言った。 「え、俺も生徒会の仕事を手伝うの?」 「奴隷はその能力に応じて仕事を割り振られるが、生徒会の手伝いは奴隷の中でも特に優れている者の役割だ。自慢していいぞ」  麗らかな春の日。陽射しは穏やかで、寮の塀の上から桜がはらはらと舞っている。  近くを歩いていく生徒たちは誰も彼も雪生を振り返り、次に鳴をじろじろとながめていく。  雪生は視線を気にする様子は微塵もないが、他人からの視線に慣れていない鳴は、どうしても肩が小さくなってしまう。 「自慢もなにもあんたの奴隷は俺ひとりでしょ」 「そうとも言うな」 「そうとしか言わないんだよ」  なにがおかしいのか雪生は軽く笑い声を上げた。 「理由はともかく、奴隷に与えられる役割すべてがおまえのものだ。少しはくらい期待してるからせいぜい頑張れ」 「わー、励ますの下手すぎー」 「おまえの至らないところは俺がカバーしてやるから安心しろ。まあ、至らないところだらけだろうが」 「あんたってほんっとひと言多いよね。無駄に敵を作るタイプでしょ」 「安心しろ。おまえ以外が相手なら多少は気を遣う」 「昨日から思ってたけど、安心しろの使い方おかしいから」  鳴が口を尖らせて抗議すると、雪生はふたたび声を上げて笑った。  なにがおかしいのかさっぱりわからないが、抓られたり罵られたりするよりも笑われるほうがずっといい。  鳴は本校舎の手前で雪生と別れた。春夏冬は学年によって昇降口が決まっている。一年にあてがわれているのは西校舎の昇降口、二年は東校舎だ。  歩きながら校舎を見上げる。  明治時代に建てられたというレトロモダンな本校舎は木骨石造の建物だ。天辺に設けられた六角形の塔屋は時計台になっていて、大きな鐘が吊り下がっているのが地上からも見て取れる。  後から建て増しされた西校舎と東校舎も、本校舎に倣って外観は擬洋風建築だ。本校舎だけが三階建てで、他の校舎は五階建てになっている。  いかにも由緒ありそうな風格の校舎に、一般庶民の鳴はいささか気後れした。 (庶民は庶民らしく庶民な高校に進学するべきだった)  後悔先に立たずということわざをしみじみ実感する。 (じいちゃんはどうしてこの学園をごり押ししたのかな。頑固じじいだけど、あのじいちゃんが孫の俺のためにならないことを奨めたりするはずないんだけどな)  この学園を奨めた理由がきっとあるはずだ。あると思わなかったらやっていられない。

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