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青いノートの秘密 3

「っていうかさ、桜、本気でこれひとりしか選ばないつもり? キングが十人の奴隷を持つのを許されているのは、それだけ仕事があるからだよ。普通はさ、十人の中から生徒会の仕事の手伝いを三人選ぶのにたったひとり、それもこれって」  肩を竦めながら言ったのは副会長の遊理だ。汚らわしいものを見るような眼差しで鳴を一瞥する。  鳴は思わず首を竦めた。遊理の視線に晒されると、シャツについた頑固な汚れになった気分になる。 「如月、俺の奴隷をこれ呼ばわりしないで欲しいな。もちろんたったひとりで大丈夫だ。俺は俺の能力をよく把握している。万が一、生徒会の仕事に差し障りが出るようだったらリコールしてもらって結構だ」  雪生の口調は穏やかだったが、同時にこれ以上ないほどきっぱりしていた。 「……親衛隊はどうするんだよ。奴隷の中から腕の立つのをひとりかふたり選ぶことになっているけど、まさかそれもその子にやらせるつもり?」  鳴は親衛隊と聞いて仁王そっくりな先輩の顔を思い出した。確か新久と言ったか。いかにも腕が立ちそうな男だったが、どうやら彼も奴隷のひとりだったらしい。 「俺に親衛隊は必要ない。自分の身は自分で守れる」  鳴からは雪生の斜め横顔しか見えないが、その表情は雪生らしからぬほどにこやかだった。にこやかなのに同時に冷ややかでもあるという複雑な笑みだ。 「……わかったよ。まあ、確かに桜に親衛隊は不要かもね」  遊理は洋画の俳優みたいに手の平を上に向けて肩を竦めた。気障ったらしい仕種も美形がすると様になるもんだな、と鳴はこっそり感心した。 「じゃあ、本題に入る。直近の行事は春の球技大会と初夏の武芸大会だな。どちらも今のところこれといった変更点はない。例年通りに進めて――」  雪生が言葉を切った。  誰かが生徒会室のドアをノックしたからだ。  雪生は片眉を上げてドアへ視線を向けた。会議中の訪問者を快く思っていないのが、表情からありありとわかる。 「会議中だと伝えてくれ」  ドアの近くに座っていた生徒が、雪生の言葉に立ち上がり、ドアを開けた。 「桜会長――!」  生徒会役員が言葉を発するより早く、ノックの主は生徒会室へ飛びこんできた。  鳴は目を瞠った。この錚々たる面々の中に乱入するとはなんたる度胸。  闖入者は大胆不敵な行動に似つかわしくなく、繊細な顔立ちをした少年だった。すらりとした細身で、雪生や遊理のような華はないが、じゅうぶんに整った容貌だ。  ネクタイの色からすると二年生のようだ。  その顔には途惑いと腹立たしさか綯い交ぜになったものが浮かんでいる。

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