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王様の元カノ 1
次の日からは怒涛の忙しさだった。
早朝五時半に起きて、というか叩き起こされて、一時間の早朝学習。
食堂で朝食を済ませるとすぐに登校。教室ではなく生徒会室へ向かい、雪生に命じられるままに雑務をこなす。
昼休みは購買でパンやおにぎりを買って、生徒会でそれを食べながら仕事を片づける。
授業後はまたもや生徒会室へ直行だ。朝と昼の雑務の続きをせっせとこなす。
生徒会の業務は午後六時に終了した。
鳴は仕事から解放された時にはすでに疲労困憊だった。椅子に座りっぱなしで身体は大して動かしていないのに。頭脳労働だけで人はここまでへろへろになるのだと、生まれて初めて知った。
「……やっぱり残り九人の奴隷も選んだほうがいいんじゃない?」
夕食が終わって部屋にもどると、鳴はソファーにぐったりともたれながら雪生に言った。
奴隷としての本格的な仕事を始めてまだ一日目。それなのにすでに身も心もくたくたのぐたぐただ。この調子では一週間後には過労で倒れてしまいかねない。その場合、労災は下りるんだろうか。
キングたちが奴隷を十人選べる理由がわかった気がする。
「たった一日で音を上げたのか? 情けない奴だな」
雪生は小馬鹿にした表情で鳴を見下ろした。
鳴より数倍の仕事量をこなしたはずなのに、その顔には疲労の欠片も見られない。相も変わらず綺麗で色っぽくて涼しげだ。
「だって、他のキングは生徒会担当の奴隷が三人いるけど、こっちはひとりだよ!? ひとりで三人ぶん働いてるんだよ!? 特別手当てでももらわないとやってられないよ!」
「特別手当てか」
雪生は鳴の隣に腰を下ろすと、ぐっと顔を近づけてきた。近づいてきた顔を避けようとして、背中がずるりと滑る。あっと思ったときには鳴は雪生に肩を掴まれて、ソファーに押しつけられる格好になっていた。
桜色の唇が笑った。と思った瞬間、口づけられた。
(――だから、軽々しく人にキスするなって言うのに……!)
だいたいこのキスの意味はなんなんだ。敬語も敬称も使っていないはずなのに。
文句を言おうとして口を開いたが、ひと言も言えなかった。雪生の舌が入りこんできたからだ。
「――――!」
焦った鳴は雪生の肩をばしばしと叩いた。
が、雪生はびくともしない。身長こそ五センチほどしか変わらないが、筋肉のつきかたは歴然と違う。服を着てしまえば大差ないのに、脱いでしまうと怪しいマシーンの使用前と使用後だ。
舌で舌を舐められて、身体がびくっと震えた。気持ち悪いような気持ちが良いような――いや、いいわけがないと慌てて思い直す。
「んッ、ちょ、ふ――」
舌は丁寧に口の中をなぞっていく。滅多に手に入らないキャンディを溶かしていくように、ゆっくりと。
やばい、と思った。絶対に溶けてはいけないものが溶かされていくような、そんな感覚。
やばい。やばい。やばい。
鳴はほとんど無意識に雪生の肩口を握り締めていた。もう片方の手は雪生の手に捕らえられ、指と指を絡めるようにして握られている。
ようやく唇が離れたときには鳴は呆然としていた。が、それも束の間――
「きゃーっ!」
女子のような悲鳴が出た。雪生がチノパンの上から股間を掴んできたからだ。
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