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王様の元カノ 2

「なんだ、元気じゃないか」  元気というのは鳴ではなく鳴の分身とも言うべき下半身のことだ。  信じられないことに勃ってしまった。キスされただけなのに。相手が女の子ならともかく男なのに。 (もう死にたい……)  鳴は恥ずかしさのあまり涙ぐみながらも雪生を睨みつけた。 「うるさい! 馬鹿! 変態! 男の子の大事なところを気安く触るな!」  怒鳴りながらソファーから逃げ出す。  雪生は悠然と足を組んでソファーに座り直した。 「おまえが言ったんだろ。特別手当が欲しいって」 「……まさか今のキスが特別手当?」 「気持ちよかっただろ?」  雪生は少しも悪びれることなくにっこりと微笑んだ。怒りのあまり拳がわなわなと震える。 「男にキスされて気持ちいいわけないでしょ!」 「勃っていたくせに、嘘を吐くな」  ぐっと言葉につまる。だって、あんな不埒なキスをされたら、その手のことに不慣れな鳴はどうしたって反応してしまう。己の経験値の低さが憎い。 「言っておくが、おまえに与えた仕事の量は奴隷ひとりの半分くらいだ」 「えっ、あれで!?」 「少しずつ増やしていくから安心しろ。いきなり奴隷ひとりぶんの働きができるなんて、誰も思っていない」  今でさえいっぱいいっぱいなのに、これが倍になるなんて。鳴は目眩がした。 「前に奴隷の仕事はキングによって違うって言ってたけど、生徒会の手伝い以外にもなにかあるの……?」 「例えば如月は年に一回開催される校内ファッションショーを担当している。奴隷の半分はその要員に割かれるだろうな。一ノ瀬はサッカー部も兼任しているから、遠征の際は奴隷が書記長代行を務めることになる。球技大会の担当も一ノ瀬だ」  デザインの専門学校でもないのにファッションショーとは。この学園のことだからさぞかし贅を尽くしたショーになるだろう。 「乙丸は軽音楽部所属で、バンドのボーカルとギタリストもやっている。秋の芸術大会の担当も乙丸だ」 「……なんかイベント事が多過ぎない?」 「勉強だけが人生を豊かにするわけではない。美、運動、音楽、文学が心を育て人生を、ひいては世界を豊かにするのだ、というのが春夏冬の創設者の言葉だ」  はあ、と気の抜けた返事になった。ご立派な持論だが扱き使われる奴隷の身にもなっていただきたい。 「で、雪生もなにか担当してるの?」  他のキングのことはこの際どうでもいい。どれほど扱き使われたところで、彼らの奴隷は好き好んで奴隷をやっているのだ。 「俺は乗馬大会の担当だ」  乗馬大会。それで馬の鞍だの鞭だのと言っていたのか。 「へー、この学園って乗馬部があるんだ」 「乗馬部はないが、乗馬クラブに入っている生徒はそれなりにいるからな。参加者は毎年多い」  さすがは金持ち学校だけはある。鳴なんて子供のころに牧場でポニーに乗ったことがあるくらいだ。百メートルほどの距離を一周して千円だった。子供心に暴利だと思ったのを覚えている。 「じゃあ、俺はそれの手伝いもするんだ」 「そうだな。おまえには俺の馬役をやってもらおうか」 「ちょっと! 俺の母さんはそんなことをやらせるために俺を生んだんじゃないんだけど!」  鳴がいきり立ってつめよると、雪生は「冗談だ」と言って楽しげに笑った。  心の底から腹立たしい。笑った顔をちょっと可愛いと思ってしまって、余計に腹立たしくなった。

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