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王様の元カノ 3

「仕事はそれ以外にも色々ある。おまえにこなせるギリギリの量を与えるから心配するな」 「ギリギリじゃなくってらくらくな量を与えて欲しいんだけど……」  鳴は反対側のソファーに腰を下ろした。おそらく数十万はすると思われるソファーは鳴の腰をやんわりと包みこむ。  鳴が奴隷一人ぶんの仕事をこなせない上に奴隷がたったひとりしかいないとなると、雪生の負担は相当なはずだ。それなのに、雪生の顔のどこにも疲労の色はない。 「あのさ、土日は休んでもいいんだよね?」 「土曜の午前中は生徒会の仕事がある。日曜日は特に用がなければ休んでいいぞ。用のあるときは前もって言っておく」 「……今どき週休二日制じゃないなんて。ブラック企業ですか、この学園は」  多少は休みがあるだけマシと言えばマシかもしれない。土曜日も奴隷の仕事は午前中だけで済みそうで、少しだけホッとした。 「休みなんかもらってどうする気だ。彼女のひとりもいないのに」  雪生は単純に疑問だ、という表情だ。嫌味でも皮肉でもないところが逆に腹立たしい。 「彼女がいないって決めつけないでもらいたいんだけど」 「いないんだろ?」 「いないけど……」  今だけじゃなく十五年間という短い歴史の中で、彼女という存在がいたことは一瞬たりともない。高校に入ったらがんばって彼女を作ろうと思っていたのに。男子校ではがんばりようがない。うっかりがんばって彼女じゃなく彼氏ができようものなら、喜劇かつ悲劇だ。 「そういう雪生は彼女いるの?」  誰ともつきあったことがない、という可能性はゼロだろう。相当な経験がなければ、さっきみたいなキスはできないはずだ。未経験者の鳴にもわかる。 「今はいない。アメリカにいたころはいたけどな」 「ひょっとしてアメリカ人の彼女?」 「アメリカ人もいたし、日本人もいたし、他の国の子もいた」 「……いったい何人の子とつきあってきたわけ?」  呆れて問うと、雪生は表情をなくして口を閉ざした。どうやらついうっかりしゃべり過ぎたらしい。 「三人だ」  雪生は気を取り直したように答えたが、それが嘘なのは馬鹿にでもわかる。  アメリカには十四までしかいなかったはずなのに。三人でも多過ぎるくらいなのに。  どうやら恋愛事に関してはかなり自由奔放な男のようだ。男の鳴にさえ平気でキスしたり、股間を触ったりするくらいだ。女の子が相手ならたった一日で妊娠させかねない。  冷たい視線を送ると、雪生はすっと立ち上がった。 「今日は俺がお茶を淹れてやろう。慣れない仕事でおまえも疲れただろ」  そう言いながら簡易キッチンへ姿を消した。

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