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王様の元カノ 4

 雪生の淹れてくれた紅茶は香り高く美味しかった。昨日、鳴が淹れた茶葉と同じもののはずなのに、今日のほうが一段と香りがふくよかだ。 「そろそろ学習タイムだな」 「あのさ、雪生」  鳴はカップを口元に運びながら、反対側のソファーに据わっている雪生に視線を向けた。 「つかぬことを訊くけど、彼女を作るコツってある?」 「なんだ、マヌケのくせに彼女が欲しいのか?」 「マヌケはこの際、関係ないでしょ! てゆーか、俺は別にマヌケじゃないし! 聡明でもないけど!」  雪生はティーカップを受け皿へもどした。 「コツというか、寄ってくる女性の中からタイプの女性を選んで声をかければいいだけだろ」  モテる男の恋愛論に興味があったので訊いてみたが、思っていた以上に参考にならなかった。  鳴と雪生ではスペックに差がありすぎる。だんご虫が黒豹にメスの惹きつけかたを訊くようなものだ。 「寄ってくる女の子がいない場合は?」 「鳴、安心しろ。死ぬまで彼女ができなくても人間は生きていける」  雪生は優しい声で言うと、憐れむように微笑みかけた。 「死ぬまでとか縁起でもないことを言うなよ! 彼女のひとりくらい、死ぬまでにはちゃんとできるから!」  鳴は二十代半ばで恋愛結婚、子供は二人か三人、三十代で一戸建てを購入して犬を飼う、という人生設計を立てている。  彼女ができなくては計画が頓挫してしまう。 「どのみち彼女ができたところで、奴隷の間はデートする暇もないけどな。彼女どうこう言っていられるということは、まだまだ余裕があるということだな。よし、明日からさっそく仕事量を増やすことにしよう」 「えっ、ちょ、ちょっと! そんないきなり無茶だって!」 「鳴、がんばれよ」  雪生はにこやかに微笑みかけると、カップを手に立ち上がった。そのまま簡易キッチンへ姿を消す。  どうやら余計なことを言ってしまったらしい。  鳴はテーブルに両手をついて項垂れた。  学習タイムが終わり、入浴も済ませた鳴はベッドの中でスマートフォンをポチポチ打っていた。メッセージのやりとりの相手は心の友、瀬尾朝人だ。  朝人に訊きたいことは富士山どころかエベレスト並にあるのに、始業前も昼休みも放課後も生徒会に拘束されるので、のんびり会話する暇もない。  短い休み時間さえ他のクラスメートがあれこれ世話を焼こうとしてきて、なかなか自由に過ごせない。  雪生の「面倒をみてやってくれ」という言葉に従っているんだろうが、はっきり言ってありがた迷惑だ。 鳴『疑問なんだけど、なんだってみんなそんなに奴隷になりたいの?』 朝人『生徒会執行部のメンバー、特にキングたちは生徒たちの憧れなんだよ』 朝人『庶民がお近づきになるには奴隷に選ばれるのがいちばんの近道だから』 鳴『でも、みんな男じゃない。男とお近づきになっても嬉しくなくない?』 朝人『うーん、同性だからこそ憧れることってあるでしょ。あんな風になれたらって』 鳴『あーなるほどー』  ちょっとだけだが理解できた気がする。といっても、受験組の鳴にはキングたちの凄さがまだよくわかっていないのだが。  雪生に至ってはただの変態なのでは、と思い始めている。 鳴『キングってそんなに凄いんだ』 朝人『みんな文武両道で、勉強もできるしスポーツも万能だからね』 朝人『それだけじゃなくて、それぞれ凄い才能を持ってるし』 朝人『でも、ずっとそうだったわけじゃないんだ。今みたいにキングが憧れの対象になったのは、桜先輩が生徒会長になってからだよ』 鳴『それまでは憧れられてなかったの?』 朝人『憧れっていうよりも恐怖の対象かな』 朝人『奴隷の扱いもひどかったし、キングなのをいいことにやりたい放題だったよ』  雪生に限って言えば、今でも相当ひどい扱いをしているし、やりたい放題やっているのだが。

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