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太陽はかく語りき 1
次の日、雪生は宣言通り生徒会の仕事を増やしてきた。さすがに倍量ということはなかったが、手一杯なところに増やされるのは消費税ほどでもきつい。
鳴は忙しさに目が回るという慣用句を生まれて初めて実感した。
「……はあああああ、疲れた」
生徒会室のドアの前で盛大に溜息を吐いてから、どでかいチョコレートみたいなドアを押し開ける。雪生に命じられて全校舎に球技大会のポスター貼りをしてきたのだ。
あれ、と思った。生徒会室の馬鹿みたいに長いテーブルに座っているのが書記長の太陽だけだったからだ。テーブルの上はノートパソコンや書類やペンなどで雑然としているが、布張りの椅子はがらんとしている。
どうやら他のみんな出払っているらしい。
「お疲れ様」
太陽はノートパソコンを叩いていた手を止めて、爽やかな笑顔を向けてきた。
この先輩は食事のときなども、鳴相手に気さくに話しかけてくれる。はっきり言って好感度は主人の雪生よりも高い。
さっぱりした短髪に、浅黒く焼けた肌。長身でがっしりした身体つき。明るく堂々とした態度と爽やかな笑顔が名前通り太陽を思わせる。
一ノ瀬先輩が太陽なら雪生は月だな、と鳴は思った。冴え冴えとした光で夜の闇を鋭く切り裂く。
鳴は前々から太陽に訊きたいことがあった。今がチャンスかもしれない。
「あの、作業中すみません。質問があるんですが」
鳴が椅子に座って声をかけると、太陽はパソコンから顔を上げた。
ちなみに鳴の席は雪生の隣だ。お誕生日席の隣ってどうなんだ、と思わなくもないが、テーブルが広いので窮屈さはそれほど感じない。スペースよりも、ミスをすると隣からすかさず悪口雑言が飛んでくるのが難点だ。
「俺に質問? なに?」
「あのですね、前に生徒会長が俺を奴隷に選んだ理由がわかる、みたいなことをおっしゃってたじゃないですか。その理由を聞かせて欲しいんです」
お願いします、と頭を下げる。
太陽は面白そうな顔で鳴をながめた。
「桜が君を選んだ理由がそんなにも気になる?」
「奴隷に選んだ理由がわかったら、奴隷から解放してやるって言われてるんです」
「ああ」
鳴の科白に納得したようすでうなずく。
「迂闊に話したら桜に恨まれそうだな」
「あのっ! そこをなんとか! 哀れな仔羊のためにお願いします!」
「仔羊って」
鳴が両手を合わせて拝むと、春夏冬の書記長は小さく笑った。
「わかってると思うけど、俺の推測が正解とは限ってないよ」
「わかってます。どんなささいなものでもいいから、手がかりが欲しいんです」
「桜の奴隷がそんなにもいや?」
「いやです。だって、奴隷ですよ、奴隷! 響きがもういやです。士農工商の時代だって奴隷なんてポジションはなかったのに」
太陽はノートパソコンを閉じると椅子ごと鳴に向き直った。
「昔は奴隷なんて呼び名じゃなかったんだよ。七年前までは生徒会の手伝いはパーティーって呼ばれていた。誕生日会とかのパーティーじゃなくて、登山のパーティーと同じ意味でね。キングなんて呼び名も昔はなかった」
初耳だった。
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