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桜舞う 1

 待ちに待った土曜日がやってきた。  午前中は生徒会の業務があるが、それが終われば久しぶりの自由の身だ。 「奴隷は今日の午後からお休みなんだよね? 好きなことをしていいんだよね?」  鳴は雪生と共に学校へ向かいながら訊ねた。念を押しておかないといきなり用事を言いつけられるかもしれない。 「休みと言えば、まあ、休みだ。が、暇ならいくらでも仕事を与えてやる。遠慮はしなくていい」 「ははは、なにそれ。アメリカンジョークって奴? 笑えなーい。だだすべりー」 「時間があったところで、おまえはどうせだらだらぐだぐだして終わりだろ。だったら俺の役に立ったほうが有意義だ」 「予定くらいちゃんとあるから。今日は瀬尾君とのんびりゆっくりお話することになってるんだよ」  桜はすでにほとんど散ってしまった。アスファルトに花弁の残骸が残っているが、塀からのぞいている桜の枝はすでに葉桜になりかけている。 「寮から出るわけじゃないなら、瀬尾を部屋に招くといい」  鳴は隣を歩く雪生の顔をしげしげとながめた。 「どうかしたのか」 「え、いや、俺の友達を部屋に呼んでいいんだーって思って」  友達を呼んでいいか訊いたところでにべもなく撥ねつけられるものとばかり思っていた。それも罵詈雑言のおまけつきで。 「あの部屋はおまえの部屋でもあるからな。節度と良識を忘れないなら、いつでも友人を呼べばいい」 「へー! 偶には心が広いところも見せるんだ」  褒めたつもりだったのに、睨まれた上に頬を抓られてしまった。 「おまえはつくづくひと言多いな。口は災いの元という言葉を知らないのか?」 「いたっ! いたいって! 顔が伸びる! あ、でも、瀬尾君を部屋に呼んだら萎縮しちゃうかも」  なにせルームメイトは生徒会長の桜雪生だ。雪生が近くにいては、朝人が緊張してしまってのんびりおしゃべりどころじゃなさそうだ。  それに今日は雪生の話を聞くために朝人と会うのだ。本人にいられては話しにくいどころじゃない。 「俺なら午後は外出するから遠慮することはないと言っておけ。夕食まで部屋には帰らない」 「えっ、ひょっとしてデート?」 「ああ、そうだ。相手は祖父だけどな」 「……それ、デートって言わないから」  母親ならまだしもおじいさんて。  そんなやりとりを経て、鳴は朝人を部屋に招くことにした。

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