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桜舞う 4
「その制裁っていうのがひどくて。えと、なんて言ったらいいのかな……」
「……?」
鳴は頭の上にクエスチョンマークを浮かべながら首を傾げた。
「えっと、あの、つまり、その、要するに――桜先輩をよってたかって暴行、しようとしたんだよ」
朝人は耳どころか首まで赤くなっている。どうして赤くなっているのかわからなかったが、すぐにピンときた。
「まさか――それって性的な暴行ってこと?」
キングによる奴隷への性的な暴力があったらしい、というのは太陽から聞いていた。
まさか我が主人までもがその餌食になりかけていたなんて。
「でも、会長にそんなことをしたらいくらキングでも警察沙汰になるんじゃないの? だって、会長はSAKURAグループのお坊ちゃまなんでしょ。親が黙っていないと思うんだけど」
「……ちょっと言いにくいんだけど、あの、してるときの写真を撮って口封じをしようとした、らしいよ。あ、もちろんほんとに写真を撮られたわけじゃないから! 安心して!」
鳴が渋柿を一気食いしたみたいな表情になっているのに気づいたらしく、朝人は慌ててつけ加えた。
聞いているだけで耳が腐りそうだ。いったいどういう育ちかたをすればそんな汚いことを思いつくのか、鳴には理解不能だ。
「あの瀬尾君、すっっっごく疑問なんだけど、どうしてそんなえげつない人間が会長なんかに選ばれたの? 現会長も俺に対してはちょっとどうかと思うことを色々してくるけど、そんな腐った真似はさすがにしないよ」
「生徒会長は前任の生徒会長が選ぶんだよ。前の生徒会長も似たような人だったから……」
「なるほど。デフレスパイラルって奴だね」
「それちょっと違うと思う」
朝人は気が抜けたように笑うと、カップを口許へ運んだ。
「前の会長はどうなったの? ひょっとしてまだこの学園にいるの」
「ううん。その事件があってすぐに転校していったよ。事件に絡んだ他の役員たちも一緒にね。奴隷については命令されてやむなく、っていうことで一週間の停学処分で済んだけど」
生徒会長がリコールなどで失脚した場合は、全校生徒の投票で会長を決定することが校則で決まっている。
桜雪生は生徒からの圧倒的支持を受けて新しい会長に就任した。
朝人はそう語った。
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