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夜食狂想曲 7
「なんだってそんなにぐったりしてるんだ。電車に乗っただけでそんなに疲れたのか?」
雪生はよれよれしている鳴を不思議そうにながめた。
「……雪生はよく平気だね。みんなからじろじろ見られまくってるのに」
周りの注目を浴びるのは学園でもだが、生徒たちはここまであからさまにじろじろ見てきたりしない。雪生を敬う気持ちがあるからだろう。
しかし、街で出くわす人たちの視線は遠慮がない。雪生がもう少し親しみのある顔立ちだったら、視線だけじゃなく声もかけられまくっているはずだ。
「有象無象の視線なんて、いちいち気にしていられないだろ。視線が咬みついてくるわけじゃあるまいし」
「有象無象て」
「オタクの街だけあってアニメのパネルが多いな。ああいった目と胸が肥大化しているイラストがオタクの萌えなのか?」
雪生は理解しがたいと言いたげな表情で、あちこちのビルに掲げられているアニメキャラの巨大パネルを見上げている。
「肥大化て。まあ、あーゆーのがオタク受けする絵なんじゃない?」
「おまえもあの手の絵に萌えるのか?」
「俺はオタクっていうほどアニメとか好きなわけじゃないよ。俺が女の子キャラで萌えるのは不二子ちゃんだな。雪生、ルパン知ってる?」
「子供のころ見たことがある。目はともかく胸は肥大化しているのがいいんだな」
「その肥大化って表現どうにかならない……?」
どうやら鳴のご主人様は巨乳という言葉を知らないらしい。下手に教えると遊理に絞め殺されかねない。口にするのはやめておこう。
鳴は駅からほど近い家電の量販店に向かった。
炊飯器のコーナーに入ると、左右の棚にさまざまな炊飯器がずらりと並んでいる。
価格は数千円のものから十万円を超えるものまでピンキリだ。
「鳴、これにしろ」
雪生が指で指し示したのは最高価格帯の炊飯器だ。金持ちには困ったものだ。鳴の財布事情を少しも考慮しようとしない。
「そんなの買えるわけないでしょ。予算は二万なんだから」
資金源は今年のお正月に家族や親戚からちょうだいしたお年玉の残りだ。
「金は俺が払う。だから、これにしろ」
「いやいやいや、俺の買い物なんだから俺が払うよ」
「夜食は俺も食べるんだ。俺が払ってもいいはずだ」
鳴には二万でも大金だけど、雪生は十万円くらいはした金なんだろう。
だからといってこんな高い物を雪生に買ってもらうわけにはいかない。数十円の駄菓子ならともかく。
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