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夜食狂想曲 11

「ねえ、そろそろ帰らない? このあとスーパーに寄ってお米とかも買わないといけないし、腕が疲れてきたんだけど。ていうか、この炊飯器は雪生の炊飯器でもあるんだから、そろそろ持つの替わってよ」 「……鳴、価格がおかしくないか?」  しかし、雪生は鳴の話をまったく聞いていなかった。  平積みになっているB5サイズの本を取り上げると、検分するかのように横から上からしげしげと眺める。  表紙のイラストは巨乳、いや、爆乳の少女だ。着ているものはパンツ一枚で、そのパンツも表面積が限界まで小さい。 「こんな薄っぺらい本が千五百円もするのか? いつの間に日本はここまでインフレになったんだ」 「それは一般書じゃなくって同人誌だからね。同人誌はたくさん刷れないからどうしても割高になるんだよ」 「同人誌? 硯友社の我楽多文庫みたいなものか? それにしてはエロティシズムが露骨に押し出されていて、あまり文学性は感じられないが」 「我楽多文庫は知らないけど、同人誌はエロいのが多いみたいだよ。買ったことがないから詳しくは知らないけどさ。はい、それ元にもどして。なんでもすぐ手に取らないの」  雪生は素直に同人誌をもどしたが、まだ気になることがあるのか眉を寄せて表紙を見つめている。 「いくらなんでも胸の大きさがおかしくないか? ここまで巨大だと重さに耐えきれずに皮膚が裂けるはずだ」 「二次元にリアルを求めない。ほら、もういくよ」  同人誌を物色しているお兄さんたちが鳴たちをちらちらじろじろと見てくる。鳴は雪生の腕を引いてフロアの奥へ歩いていった。 「鳴、ボーイズラブっていうのはどういう意味だ?」 「へ?」  雪生の視線を辿ると、書棚の上に『ボーイズラブコーナー』と書かれた紙が貼られている。  ああ、もう余計なものを。いちいち説明を求められるこっちの身にもなってくれ。 「直訳すると少年の愛だけど、少年が主人公の恋愛モノということか?」 「まあ、そんなところだよ。ほら、だから、なんでも手に取らない!」  雪生が手に取ったマンガの表紙には、キリッとしたイケメンとそのイケメンに抱き締められている少女めいた少年が描かれている。表紙だけなら普通の少女マンガと大差ない。 「場所を割いてコーナーが作られているということは人気があるんだな。面白いのか?」 「俺になんでもかんでも聞かないでよ。ボーイズラブは女の子の読み物なの。男が読むものじゃないよ」  鳴はさっさとこの場から離れようとした。ボーイズラブコーナーにいる女子たちが鳴と雪生を見ながらひそひそ話をしているのに気づいていたからだ。 (ぜっっっっったいおかしな妄想されてる!)

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