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夜食狂想曲 13

 委員長はボーイズラブについてなにも知らない雪生相手に、それはそれはじっくり丁寧に説明した。 (……ああ、腕が怠い。なんだってアニメキッズでボーイズラブの解説を聞かないといけないんだ。なんの罰ゲームだ、これ。それもこれも雪生がすぐにあれこれ興味を持つからだ)  貪欲な知識欲があったからこそ十四歳にして大学を卒業できたのかもしれないが、それに鳴を巻きこまないでいただきたい。  ボーイズラブコーナーに佇む少年ふたりと、その少年相手にボーイズラブについて懇々と説明する少女は周囲の注目を浴びまくっていた。  鳴は身を小さくしているが、雪生は堂々としたものだ。胸の前で腕を組んで委員長の話に聞き入っている。 「……説明がすっかり長くなってしまいました。少しはボーイズラブについてご理解いただけたでしょうか?」  ようやく説明が終わったらしい。鳴はほとんどまともに聞いていなかったが、雪生は深くうなずいた。 「ああ、理解した。なかなか興味深く面白い話だった。ありがとう」  雪生が微笑んで右手を差し出すと、委員長はふたたび頬を赤らめた。慌ててトートバッグからハンカチを取り出し、右手を綺麗に拭いてから雪生に差し出す。 「お礼を言いたいのは私のほうです。あなたのような殿方がボーイズラブに興味を抱き、ご理解くださるなんて、生きる希望が湧いてきたような気がします」 (殿方て。生きる希望て。なんだか大袈裟な子だなー) 「雪生、そろそろ帰るよ。ボーイズラブの意味もわかったことだし、もうこれで気が済んだでしょ」 「ちょっと待て。せっかくだから何冊か買って帰ろうと思う。君のおすすめの本を教えてくれないか?」  雪生の言葉に委員長の眼鏡がきらーんと光った、ような気がした。 「わかりました。私の知識を総動員して、初心者さんでも読みやすいものをおすすめさせていただきますね。そうですね、まずはこちらの小説はいかがでしょう。男子校を舞台にした青春モノです。切なくて泣けるシーンも多々ありますが、読後感はいたって爽やかです。攻めだけじゃなく受けの子もカラッとしていて男の子らしいですし、お布団シーンが少なめなのでBLに不慣れな殿方でも読みやすいかと思います。次はそうですね、こちらのマンガも初心者さんにはおすすめです。こちらは教師と生徒の禁断のラブストーリーなんですけど、コメディタッチで描かれているので読みやすいと思います。コメディといっても男同士かつ教師と生徒という二重の禁忌はしっかり描かれていますので、背徳の萌えはしっかり十二分に味わえます。次は――」  雪生は委員長が差し出した本を素直に受け取ると、興味深そうに表紙をながめた。 「あの、もうそのくらいで……。あまり多いと持って帰るのも大変だから」  なにせこの後はお米を買って帰るのだ。お米は雪生に持ってもらうつもりなので、あまり本を買いこまれると困ってしまう。 「あら、そうですか? じゃあ、あと一冊だけ」  けっきょく雪生は委員長からおすすめされた三冊のBL本を購入すると、アニメキッズの出入り口にようやく向かった。

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