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夜食狂想曲 15
「俺なら亜和田になにをしたところで報復は受けない。桜家は亜和田家以上の力を持ってるからな。亜和田を抑えるのにうってつけの人材だろ」
雪生は悠然と足を組んで鳴に微笑みかけた。
「春夏冬の理事長はうちの祖父の幼馴染みで、子供のころはよく遊んでもらったんだ。幼少のころの恩もあるし、亜和田みたいなクズをのさばらせておくのも目障りだからな。いなくなってすっきりした」
雪生のような人間にも苦労はあるんだな、と思って少しは同情していたのに、どうやら鳴の同情などまったく必要じゃなかったらしい。
「襲わせるって色仕掛けで迫ったりしたの?」
「あんなクズ相手にそんな真似をするわけないだろ。演技でも吐き気がする。俺はただ球技大会と武道大会で優勝しただけだ。そうすれば生徒たちは亜和田より俺のほうが生徒会長にふさわしいと噂するだろうし、それが亜和田の耳に入れば俺を潰しにかかるのも予想できたからな」
「はー……」
思わず間の抜けた声が出た。
ただ優勝しただけだと雪生は軽く言ったが、そんなの狙って簡単にできることじゃないのに。
(……なんていうか、桜雪生って本気で優秀な人なんだな。これで常識と良識を備えたら完璧なのに)
でも、そんな雪生は今以上に可愛げがないな、とも思う。
「クズのやりそうなことはだいたい想像がつく。手下を使って集団レイプ、写真を撮って口封じ。どうせそんなところだろうと思っていたが、予想通りだった。成績は良いが頭の悪い男だったからな。まあ、おかげで計画通りに事を進めることができた」
「でも、やっぱり俺はどうかと思うよ。学園全体の問題を雪生ひとりに任せるなんて。上手くいったからいいけどさ、一歩間違ってたら大変な目に遭ってたかもしれないんだし」
鳴が強い口調で言うと、雪生は少々驚いた様子だった。
「なにを熱くなってるんだ。もう終わった話だぞ」
「これからまた似たようなことがあるかもしれないでしょ。そういう時は他のキングを頼るとか、せめて俺には話してよ。あんまり頼りにならないと思うけど――」
「ならないな。逆に足手まといだ」
なんという可愛くない男だ。人が本気で心配して言っているのに。
鳴はムッとして雪生を睨みつけた。が、返ってきたのは屈託のない笑みだった。
雪生らしくない表情に心臓がどくんと跳ねた。
「わかった。おまえには言うようにする」
思いがけず素直な言葉が返ってきて、鳴は咄嗟に返事ができなかった。
「なんだ? まだ言いたいことがあるのか」
「いや……なんでもない……」
雪生は不思議そうに鳴の顔を見つめていたが、ふたたび読書にもどっていった。
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