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夜食狂想曲 16

 夕食の席に翼の姿はなかった。翼は某パンクバンドの大ファンで、今日はそのライブを観にいっているとのことだった。  ライブで拳を振り上げたり、ヘッドバンギングしている翼なんてまったく想像できないな、と鳴は思った。  パンキッシュなのは見た目だけで、中身は口があるのを忘れているのではと疑いたくなるほど無口で大人しい少年なのだ。  熱狂するライブハウスの中でひとりじっと突っ立ったまま音楽に聴き入る翼の姿が脳裏に浮かぶ。 「桜、秋葉原はどうだった?」  太陽は海老の天ぷらを大きく齧って丼にもどした。  太陽の前には海老や穴子やその他もろもろの天ぷらがのった天丼が置かれている。  一緒に食事を摂るうちに、キングたちの好みがだいたいわかってきた。  太陽は和食か中華がメイン。遊理はイタリアンかフレンチばかりで、雪生は洋食が多いが和食などもそれなりに食べる、といった感じだ。  好き嫌いがまったくない上に食べるのが大好きな鳴は、和食からフレンチまでなんでも満遍なくいただいている。  毎朝毎晩、ホテルのレストラン並の食事が食べられるなんて。ある意味、ここは天国かもしれない。 「ああ、面白かった。アニメの店にいってきたんだが、今まで見たことのないものがいろいろ売っていて実に興味深かった。フィギュアも職人気質の日本人らしく精巧にできていて、何体か欲しいくらいだった」  鳴ははらはらしながら雪生と太陽の会話を聞いていた。うかつなことを口走ろうものなら、「おまえのせいで桜が汚れた!」と遊理に怒鳴られるかもしれない。 「フィギュアくらい買えばよかったじゃないか。場所を取るものでもないだろ?」 「うちの奴隷は人形に興奮する性指向らしくてな。部屋に飾っておくと目の毒かと思ってやめておいた」 「ちょっと! 人聞き悪いこと言わないでよ! あんなやらしー人形を目にしたら誰だってちょっとはドキドキするから!」  ちゃんと服を着たフィギュアだってあったんだから、欲しかったのならそっちを買えばよかったのに。 「けっきょくなにも買わなかったのか?」 「いや、ボーイズラブの小説とマンガを購入した」 (おい! さらっと言うな!)  鳴は心で激しくツッコんだ。 「ボーイズラブ? って、男と男のアレな話の奴?」  太陽は目を丸くした。  それはそうだ。ボーイズラブは女子の女子による女子のための読み物だ。読む男子は少ないし、読んでいることを堂々と公表する男子はもっと少ない。  鳴は恐る恐る遊理の様子をうかがった。 『桜にそんな悪趣味なものを読ませるなんて! この外道!』  鬼の形相で罵倒されるのを覚悟したが、遊理は鳴のことなど見てもいなかった。  太陽と同じく目をまんまるくして雪生の顔を凝視している。

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