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夜食狂想曲 20

「いやいやいやいや! 白々しいにもほどがあるでしょ! 雪生の俺に対する扱い、けっこうかなり無茶苦茶ひどいよ!?」  鳴は思わず椅子から立ち上がっていた。 「なにを言ってるんだ。いつも可愛がってやってるだろ」 「可愛がる!? あれが!? あれで!? あんなのは虐待だよ、虐待! 奴隷に対する大いなる虐待だよ!」 「なるほど。庶民の間ではあれを虐待と呼ぶのか。勉強になった」 「庶民とか金持ちとかかんけーないの! 世間一般の感覚の話なのっ!」  大きな声を出しすぎたおかげでぜーぜーと息が切れる。涼しげな顔の雪生が憎らしい。 「たった一週間でずいぶんと仲良くなったな」  朗らかな声で話しかけてきたのは太陽だ。声と同じく朗らかな笑顔を浮かべて鳴と雪生をながめている。  仲が良いと言えるんだろうか。まあ、奴隷という立場にしては言いたい放題言っている気もするが。雪生もやりたい放題やっているからお互い様だろう。 「僕は奴隷と馴れ合うのはどうかと思うよ。以前のようなのもどうかと思うけど、キングと奴隷の間に線引きは必要だよ。じゃないと、奴隷を勘違いさせてしまう。キングと友達であるかのような、ね」  遊理は嘲笑の滲んだ眼差しを鳴に向けた。ボーイズラブトークをしていたときの熱はもうそこにはない。  鳴は椅子に腰をもどすと、食べかけのオムライスにスプーンを伸ばした。触らぬ遊理に祟りなし、だ。ここはおとなしく食事に専念することにしよう。 「ダメなのか? 俺は奴隷はみんな友達だって思ってるけどな。俺はサッカー部もあるから、奴隷がいないと生徒会役員なんてとても務まらないし。だいたい奴隷なんて呼び名は元々はなかったんだろ。以前みたいにパーティーって呼ぶようにしたほうがいいんじゃないか?」  奴隷はみんな友達。実に太陽らしい科白だ。 「そうだな。次の生徒会長には奴隷からパーティーに呼びかたを変えるように言うことにする」 「今すぐに変える気はないのか? 正直言うと、亜和田から桜に生徒会長が変わったときにパーティーにもどすって思ってたよ。昔はパーティーって呼ばれていたの、知らないわけじゃないんだろ?」  雪生は太陽に問われると、隣でオムライスをほおばっている少年――鳴に目を向けた。 「え、なに?」 「呼び名をパーティーにもどさなかったのは、こいつを奴隷呼ばわりしたかったからだ。ただそれだけだ」  ごくん、とろくに噛まずにオムライスを嚥下する。 「いや、ちょっと待ってよ。なにその理由」 「ああ、なるほど。そういうことか」 「えっ、ちょっと一ノ瀬先輩も納得しないでくださいよ!」 「ああ、そういうことだ」 「そういうことがどういうことなのか、ちゃんと説明してくれない!?」  ふたたび立ち上がって訊いたのに、鳴の切実な疑問に答えてくれる者はひとりとしていなかった。

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