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夜食狂想曲 23
「あのさ、唐揚げってけっこう手間がかかる料理なんだよ。油だって使うし、このせまーいキッチンじゃ無理だよ」
「じゃあ、理事長に言ってキッチンを改築することにし――」
「いやいやいや! 唐揚げのためにわざわざキッチンを改装しない!」
鳴は大慌てで雪生を止めた。唐揚げのためにいちいち改装していたら、雪生が卒業するころにはレストラン並みの厨房になってしまう。
「唐揚げのおにぎりなら購買で売ってるよ。明日にでも買って食べてみなよ」
「俺はおにぎりは握りたてじゃないと嫌だ」
「じゃあ、冷凍の唐揚げを買ってくるから、食堂でチンしてもらって――」
「冷凍食品は食べない主義だ」
なんという我が侭なご主人様だろうか。ばあやの縁さんに一度しばき倒していただきたい。
「じゃあ、今度うちに遊びにきなよ。母さんに唐揚げを揚げてもらって、俺がそれを握ってあげるよ」
それなら握り立てが食べられるし、寮の改築もしなくて済む。安上がりでナイスなアイデアだと思ったのだが、雪生の返事はなかった。
どうしたのかと思って視線を向けると、怒っているようにも途惑っているようにも見える表情で鳴をじっと見つめてきた。
「えっと、どうかしたの?」
「おまえはいつもそんなに気安く人を誘うのか?」
なんだか責められているように聞こえるのは気のせいだろうか。
(キングの俺を一般庶民のしょぼい家に誘うとは何事だ、って言いたいのかな)
「そりゃ、友達なら普通に誘うよ。雪生は友達じゃないけどさ、こうやって一緒に暮らしてるし、同じ釜の飯も食ったし……」
考えてみたら知り合ってからまだ一週間しか経ってないんだな、と鳴は少しびっくりした。なんだかもうずいぶん長く傍にいる気がする。家族以外の人間とここまで長く一緒に過ごすのは初めてだからかもしれない。
「家に誘うくらいはしてもいっかなーって思ったんだけど……。まあ、一般庶民のごくごく普通の一軒家だけどさ。お客さん用のスリッパくらいはちゃんとあるから安心してよ。嫌なら無理にとは言わないけど――」
「誰も嫌だなんて言っていない」
きっぱりとした口調だった。
「近いうちに遊びにいかせてもらう。唐揚げのおにぎりが気になってしかたがない」
「え、あ、うん。わかった……」
なんだかよくわからない反応だ。微妙に怒っているように見えたのは一体なんだったんだ。
まあ、いいか。
さっさと残りのおにぎりも握ってしまおう。
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