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美形と平凡 2(番外編)
「桜の写真をいくらで売るつもりなのか、と訊いてるんだ」
「で?」の一文字でそれを理解できる人間がいるのなら、今すぐここへ連れてきていただきたい。
「あの、さっきも言いましたけど、俺は会長の写真なんて持ってないんです」
「しらばっくれるな!」
バンッと乱暴な音が響いた。
遊理は鳴の背後にあるコピー機に手をつくと、冷え切った眼差しで鳴を睥睨した。
「さっきも言っただろ? 桜のルームメイトでありながら盗撮しない奴はこの世に存在しない、と。桜の寝顔だとか湯上がりの姿だとか着替えているシーンだとか、撮ってるに決まってるんだ」
「いや、だから――」
「桜の写真を一枚も撮ってないとは言わせない」
「……二、三枚くらいなら撮りましたけど」
と言ってももちろん隠し撮りなんかじゃない。正々堂々と雪生に許可をもらって撮ったものだ。
高校に入ったら奴隷になった、と中学の友人に携帯で報告したところ、ご主人様の顔が見てみたい、とみんなから言われたからだ。
「……やっぱりな。どうせ二、三枚どころじゃないんだろ」
「いや、ほんとに二、三枚です。それに盗撮じゃなくってちゃんと会長に許可をもらって撮りました」
「桜がヌードを撮る許可を奴隷に与えただって!?」
遊理の目つきがますます凄まじいものに変わった。
「えっ!? 俺、ヌードなんて一言も言ってな――」
「見せてみろ。今すぐにだ。すべての写真をチェックした上で僕のパソコンに送らせてもらう。ああ、安心しろ。ちゃんと写真に見合っただけの報酬は払ってやる。さっさとスマホを出せ」
遊理は鳴に向かって突きつけるように右手を差し出した。
「会長の写真が欲しいなら、俺が如月先輩のスマホに送りますよ。ヌードでもなんでもないけど」
「どうせとっておきの写真は独り占めするつもりだろ。そうはさせない。いいから素直にスマホを出せ。そうだな、面倒くさいからスマホごと買い取ってやる。百万でどうだ?」
「お金の問題じゃなくって――」
「百万じゃ足りないのか? のほほんとした顔をして強欲な奴だな。じゃあ、二百万だ。それで文句はないな」
遊理の親がどれくらい金持ちなのか知らないが、高校生が三桁万円の金を動かせるのは教育的に問題があるのでは。
「だから、お金の問題じゃないんです。いくら出されてもスマホはあげられませんし、スマホの中身を勝手に見られるのも嫌です」
見られて困るようなものは入っていないが、だからといって他人に勝手にのぞかれて楽しいわけでもない。
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