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美形と平凡 3(番外編)
遊理は冷気漂う微笑を浮かべた。
「見せられないような桜の際どい姿が写っている、ということか」
「いや、だから、写ってませんから」
相手は先輩――それもこの学園では教師よりも権力があり、数多の生徒を魅了するキングのひとりだったが、鳴は呆れる気持ちをだんだんと隠しきれなくなってきた。
どうやら遊理はボーイズラブと雪生のこととなるとテンションがおかしくなるらしい。飲ませる薬があるなら鼻をつまんで無理矢理にでも飲ませるのに。
「だったら見せてみろ」
「嫌です。プライバシーの侵害です」
中に入っているのは家族や友人、主にマルガリータの写真だったが、己を毛嫌いしている相手に好きこのんでプライベートを見せるほど、鳴は物好きじゃなかった。遊理には奴隷の家族や友人やペットでしかないだろうが、鳴にとってはみんな大切な存在なのだ。
万が一、馬鹿にされようものなららしくもなくキレてしまうかもしれない。が、遊理相手にキレたりしたら後が怖い。倍返しどころか千倍にして返ってくるのが目に見えている。
「奴隷にプライバシーがあると思っているのか?」
「俺は会長の奴隷であって如月先輩の奴隷じゃないですし」
「は? それは自慢か? この僕に向かってずいぶんとふざけた態度じゃないか」
遊理の眼光がますます鋭くなる。奴隷なんてご主人様が誰だろうと自慢にならないと思うのだが、雪生大好きっ子の遊理にはそうじゃないらしい。
替われるものならいつだって替わって差し上げるのに。
「いいから見せてみろ。誰の奴隷だろうがしょせん奴隷は奴隷だ。キングに逆らえると思うな」
遊理はジャケットのポケットに手を突っこんできた。
「ちょっ! やめてくださいよ!」
「ここには入ってないか。じゃあ、こっちか?」
「そんなところに入ってませんから! くすぐったい!」
鳴はどうにか遊理の手から逃れようとし、遊理はどうにか鳴のスマートフォンを奪おうと足掻いた。
押し合い圧し合いしていると、遊理に押されたはずみにぐらっとバランスが崩れた。あっと思ったときには鳴は床へ仰向けに倒れていた。
「――いたたた……」
鳴は腰をさすりながら身体を起こした。どうやら遊理ともつれるようにして転んだらしく、遊理のほっそりした身体が鳴の上に覆い被さっている。
「……なにをやってるんだ?」
すっかり聞き慣れた声が耳に届いた。遊理の下になっている体勢で声の方向へ目をやると、ドアのところに鳴のご主人様――桜雪生の姿があった。後ろには太陽と翼の姿もある。
「なにって」
見ればわかるだろう。遊理とふたりしてすっ転んだのだ。
「へえ、やけに相馬君に絡むと思ってたけど、実は相馬君狙いだったんだ。口説くのは勝手だけど生徒会室で押し倒すのはどうかと思うよ」
太陽は雲ひとつない青空を思わせる爽やかな笑顔で鳴たちを見下ろしている。
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