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朝顔少年 4

「相馬君はゴールデンウィークどうするの? 家に帰るの?」  一時限目の数学が終わると、朝人は椅子ごと鳴に向き直って訊いてきた。 「うん、三連休か四連休のどっちかは実家に帰るつもりだよ」 「相馬君の実家って遠いの?」 「ううん、さいたま市だからここから一時間もかからないくらい。瀬尾君の家は新潟だっけ」 「うん、新潟の十日町市っていうところ。僕は四連休で帰るつもりなんだ。まだ一ヶ月も経ってないのに実家が懐かしいや」  朝人は眼鏡の奥の瞳を懐かしそうに細めた。  朝人の家族はどんな人たちなんだろう。彼のルーツとなった人たちなんだから、朝人のように優しく穏やかで、それでいて強い心を持った人たちに違いない。  いつか会うことができたらいいなと、鳴は心の片隅で思った。 「実家に帰っている間は奴隷のお仕事もしなくていいし、のんびりできるね」 「あ、それが会長も一緒にくることになったんだよね。まあ、さすがの会長も俺の家で俺を奴隷扱いはしな――」 「相馬君」  朝人は鋭い口調で鳴の名前を呼んだ。朝人らしくない口調にびっくりして言葉を止める。 「な、なに? どうかした?」  銀縁眼鏡の少年は周囲をきょろきょろと見まわすと、力が抜けたように肩を落とした。 「……よかった。誰にも聞かれていないみたいだ。それ、他の人に聞かれないようにしないとダメだよ。ただでさえ相馬君は妬まれやすい立場なのに、会長が家に遊びにいくなんて知ったら大事になるかもしれない」  鳴にだけ聞こえるような囁き声だった。  鳴はハッとした。ずっと一緒にいるからついうっかり忘れてしまいそうになるが、雪生は全校生徒の憧れの対象なんだった。  朝人の言う通り、このことが知られたら雪生の熱狂的な信者たちからつるし上げを食らいかねない。  磔にされて火にくべられる己の姿を想像してしまい、鳴はぶるっと身震いした。 「わ、わかった。他の人たちには知られないように気をつけるよ。忠告ありがとう、瀬尾君」 「でも、会長ってほんとうに相馬君を気に入ってるんだね。会長は相手がキングでもプライベートなつきあいをしないって言われてるのに」  今までだったら朝人の科白をすかさず否定していたところだが、昨日のやりとりを思い出すとひょっとしたらちょっとは気に入られているのかも、と思ってしまう。  そもそもたったひとりの奴隷に選ばれた上に、ルールメイトにまでなったのだ。気に入られていると考えるのが普通だ。  雪生の所業が所業なので、今までそんなことは夢にも思わなかった。 (でも、いったい俺のどこが気に入って奴隷に選んだんだろう)  鳴と雪生は初対面のはずなのに。  けっきょくその疑問に帰ってきてしまう。

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