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キングが家にやってきた 1

 鳴はゴールデンウィークの四連休に実家ヘ帰ることにした。  前半の三連休は寮でだらだら過ごしたり、中学時代の友人たちと久しぶりに遊んだりする予定だ。  雪生は、というと前に言っていた通り、上流階級とのおつきあいで予定が埋まっているらしい。  ゴールデンウィーク初日。  昼食後、雪生はクローゼットを開けると、スリーピーススタイルのスーツに着替えた。ほんのりと光沢のあるライトグレイのスーツ。色の割りにカジュアルに見えないのは中身のせいだろう。  いつもは無造作に額へ垂らしている前髪もきちんとセットし、蹴られたらさぞかし痛そうな革靴へ履き替える。  普段の雪生もじゅうぶん過ぎるほど人目を惹くが、スーツ姿の雪生はいつも以上だ。鳴でさえうっかり見惚れてしまったくらいだ。  はっきり言ってとても一般人には見えない。SAKURAの御曹司を一般人と呼べるかどうかはともかくとして。俳優、アイドル、さもなくばモデル。どこからどう見ても容姿を武器とする職業の人間だ。 「なんだ人をじろじろ見て」  雪生はネクタイのノットを整えながら、怪訝そうな眼差しを向けてきた。 「雪生、写真撮ってもいい?」 「写真? 撮ってどうするつもりだ」 「いや、別にどうもしないけど。めずらしい格好だから記念に撮っておきたいなって」  束の間しか見られないのはもったいない。それくらい様になっている。 「あ、嫌ならいいよ。無理に撮ったりしないから」 「撮りたいなら勝手に撮ればいい。俺にとってはめずらしくもなんともない格好だけどな」  意外なくらいあっさり許可してくれたので、鳴は遠慮なく撮らせてもらうことにした。  ごくごく普通のスマートフォンだが被写体が被写体なのでなんだかプロのカメラマンになった気分だ。 (あっ、そうだ! いいことを思いついた!)  鳴は写真の加工アプリを立ち上げた。スタンプ機能で雪生の顔に猫の耳と髭と口をつけ加えてみる。 (に、似合わない……!)  どうやらこの手のスタンプは可愛い子には似合っても美形には似合わないものらしい。可愛いと言えば言えなくもないが、元が美形過ぎて滑稽さのほうが先に立つ。  鳴が堪えきれずにぷーっと吹き出すと、雪生はひょいとスマートフォンを取り上げた。 「なにが似合わないんだ」  心で呟いたつもりが声に出ていたらしい。 「あっ、ちょっと人のスマホを勝手に見るなよ!」 「……なんだこれは。鳴、俺の顔で遊ぶとはいい度胸だな」  氷点下の眼差しで見すえられて、鳴は後退りした。が、遅かった。 「いや、せっかくのスーツ姿だから可愛くしてあげようかなーって――いだだだだだ! ごめんなさい! 悪かったから離して! 千切れる! ほっぺが千切れちゃう!」 「頬が千切れても自業自得だ。すっきりした輪郭をながめてふざけた行いを反省しろ」  どうにか指を離してもらえたが、いまだに抓られているみたいにひりひり痛い。鳴は涙目で頬をさすった。  余計なことをするんじゃなかった。黒豹っぽいから猫のスタンプが似合うかも、と思ってやってみただけだったのに。

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