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僕には勿体ない2

放課後になり、生徒達の進路相談が始まる 今日は、彼とも話す日だ 「今日も気持ち良さそうに寝ていたね」 少し皮肉を込めて言ったのに 「だって先生の声、落ち着くんだもん」 なんて、机に頬杖を付いてにっこりするものだから、釣られて僕の引き締めた頬も少し緩んでしまう 「ふざけた事言ってないで、ほら、進路相談するよ 行きたい大学とか決まってるの?」 少し面倒くさそうな顔をしながらも答えてくれた大学は、かなりの名門校 彼の頭があれば、行けないこともないだろうけれど、そんな所に行ってしまったら、もう手の届かない存在になるのだろうなと思ってしまう いやいや、僕は彼の担任で、彼の進路を応援すべき存在なんだぞ… 落ち込んだ自分に気付いて嫌になる 先生として、彼の背中を押すべきなのに、言葉が出てこない そんな僕に、彼は不思議そうな目を向けている 「…あぁ、ごめんね、ちょっとだけ考え事してました 凄いじゃないですか ここからあの大学の入学者が出るなんてことになったら、僕も鼻が高いですよ」 途端に彼の目が鋭くなる 彼の目には人を惹きつける魅力があるようで、睨まれているような気がしても目を逸らすことが出来ない けれどそんな目は、あまり見たくない もう見つめ合うことすら数える程しか出来ないかもしれないのだから 「何それ、どういう意味」 正直な所、彼との関係はこの1年で終わるだろうと思っている 彼が好きなのは僕の声であって、僕のことを好きだと言ってくれるのはきっと一時の気の迷い 思春期だからだ 「そのままの意味ですよ 僕も応援するから、志望校目指して頑張って下さいね」 必要なことは話したし、進路相談は終わりましょうか、と早々に懇談を終えようとする僕に、彼の目はより鋭くなっていく ドアを開け、彼を外に促すと彼は一瞬考え込んでから、潔く廊下に出て言う 「…分かった そんなに俺と話したくないなら出ていくよ その代わり、今日先生の家の前で待ってるから」 …ん?いや待て、家の前で待たれたら、強制話し合いコースじゃないか…!

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