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第3話 齋藤将生
ドクターが驚いた顔をして、そっと降ろしてくれました。
「お、お腹が痛いっ。と、トイレに行かせてください!」
悲痛な叫びを上げると、慌てて一人のスタッフが隅のドアを指差してくれました。駆け出したけど腕は後ろに拘束されたまま。
「間に合いません!」
叫ぶと、ドクターがドアを開けてくれてなんとかぎりぎりでした。死ぬかと思いました。本当に殺されるかと思いました。
「あのお、すみません。これ外していただけないと、トイレから出られないですが」
声をかけるとドクターがドアを開けて入ってきてくれました。
「悪かったね」
優しく微笑みながら、両手を自由にしてくれました。
「これって、一体何なのでしょう?」
ようやくトイレから解放され、何が起こったのかと聞きただしました。本当に何でこうなっちゃったんだろう。
「あまりに迫真の演技で驚いたけど、演技じゃなかったんだね」
ドクターは笑っていますが、笑い事じゃありませんよね。
「柾木さん?って確認したら、はいって返事したから。今日来るはずの柾木翔太君だと。写真確認して別人だと気がついた時は驚いたよ」
ドライバーさんが頭をかきながら言っています。
「え?あの僕は、斎藤将生ですけど……」
「いやあ、惜しいなあ。すごく良い絵が撮れてるんだよね。もったいないなあ。斎藤君だっけ?バイトしない?どうせもう後ろ洗った事だし。ちょいと気持ち良い思いしてお小遣い稼ぎ。どう?」
冗談ですよね?何を言ってるかわかっていますか?
「無理です、絶対に!」
「顔はモザイクかけるからさあ」
顔は…って、どこはモザイクかけないつもりですか?
「男性経験ある?」
ドクターが聞いてきます。って・・・ドクターじゃなくて俳優さんですね。この人何を言ってるでしょうか、普通あるわけがないでしょう。
そもそも自慢じゃないけど僕は童貞です。
「へ・・な、何を。あるわけないでしょう」
「へえ、意外。そっち系にモテそうな顔してるのにね。俺なんてどストライクなんだけどなあ。どう俺と?」
モテた事は一度もありません。部活の先輩がやたらと僕に甘かったくらいで・・・と言うか、あなたの好みでも嬉しくないです!
「監督、この子だったら今日はノーギャラでも良いよ。その分この子に上乗せして。もうすっかりその気だったのにここでストップきついよ」
僕を意識的に会話から外していますね。僕の意思はどうなるのでしょうか?
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