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第8話

〈紫音side〉 「ここのドリア、安くておいしいよね」 ファミレスに入り、349円のドリアを2つ頼んだ。 先生は一口食べて、しばらく下を向いていた。 「食べないの?お腹空いてない?」 「いや…空いてるけど、食欲ないというか…」 きっとさっき見たことをバイト先や生徒の皆に告げ口されるんじゃないかと心配なんだ。 「俺、言わないよ。さっき見たこと」 「え」 「先生が男と付き合ってることも言わない。っていうか、あの人彼氏?」 「彼氏…ではないかな」 先生は相変わらず、下を向いてボソボソ喋っている。 「じゃあ、どういう関係?」 「それは…ここで言うのは憚れるというか…」 「じゃあ…静かな所行く?」 俺はスマホを取り出して、自分の家の運転手を呼び出す。 10分くらいして、黒塗りのリムジンがやって来た。 「先生、乗って」 先生は呆気に取られてたけど、構わず乗せた。 僕は運転手にとあるバーに行くように伝えた。 「花森くん、どこに行くつもり?しかもリムジンって…」 「俺の家のリムジンだから、大丈夫だよ」 「やっぱり花森くんって…お金持ちの家の子なんだね」 「まぁね」 否定はしない。 確かに僕は花森財閥っていう金持ちの家だ。 否定なんかしたら嫌みになることはわかっていた。 「これから行くところは、二人っきりになれる場所だよ」 都会の喧騒を離れて、だんだん山の中に入っていった。しばらく走ると、灰色の煉瓦造りの洋館が見えた。 会員制のバーである。 入口の前に外国人のボディーガードみたいな人がいた。 俺はカードを見せると、ボディーガードは一礼してドアを開けてくれた。 俺は先生の手を取って、中に入った。蝶ネクタイをしたボーイがやって来て、「いらっしゃいませ、花森様」と一礼した。 「奥の部屋が空いております。ドリンクはどうされますか?」 「先生、アルコール飲む?俺は未成年だからソフトドリンクにするけど」 「ソ、ソフトドリンクで…」 「じゃあ適当にソフトドリンク2つ持ってきて」 俺はボーイに部屋の鍵を受け取り、適当に注文する。 先生の細い手を繋ぎながら、奥の「10」と書かれた部屋の鍵を開けた。 先に先生に部屋へ入るように促し、俺は後ろ手に鍵を閉めた。 部屋はモノクロの壁紙の白い家具が揃えられていた。 「ここなら、誰も来ないし、誰にも聞かれないよ」 「えっと…ここまで来てなんだけど、話さなきゃだめ?」 「話してほしい」 俺はじっと先生を見つめた。そして、先生の手を引っ張り、白い革張りのソファに座らせる。 先生は「うう…」と唸りながらも、半ば諦めながら、ポツリポツリと話し出した。 「僕、昔から男が好きだったんだ…。中学生までは隠してたんだけど、高校生になって同じようなゲイの奴がいて、仲良くなって…そのまま体の関係も持った。でも、そいつ結構モテてさ…フラれちゃった。それからも、色んな男と付き合ったけど、浮気性だったり、DV男だったり、ギャンブル依存症だったりで、ろくでなしばかりと付き合ってた。 初めは、優しかったし、好きだったから、そういう欠点もかわいいなって思ってた。 でも、最後に付き合ったギャンブル依存症の奴に借金の保証人になってほしいって言われて…印鑑押したら、そいつに逃げられて、僕が借金を返すはめになったんだ」 なんとなく、話が見えてきたような気がする。 先生は、元カレの借金を返すために、もう一つ仕事をしてるんだと思った。 「先生、もしかして…体売ってるの?」 隣をちらりと見ると、先生は顔を真っ赤にしてうつ向いていた。 「今日ホテルから出てきたのは、援交相手?」 「……うん」 消え入りそうな声で頷く。 「助けてくれる人っていなかったの?親とか」 「親はもういない…事故で両親は死んじゃった。親戚もいないし、頼れる人もいない」 「ごめん…」 聞いてはいけないことを聞いてしまった。 「いや、大丈夫。もう一人は慣れたし」 どこかぎこちない微笑みに、俺は胸が苦しくなった。 俺は咄嗟に先生を抱き締めて、唇を重ねた。 先生は初め拒否しようと、身をよじらせるも、舌を入れて絡め合わせると先生もだんだん力を抜いて同じように舌を絡め合わせる。 しばらくして、唇を離すと、先生の表情はすっかり蕩けていた。 「花森くん…」 「ねぇ、先生…俺も先生のこと、買ってもいい?」 「え…だ、だめだよ…未成年だし、いや、未成年じゃなくてもだめだけど…」 「ももちゃん先生もいけないことしてるんでしょ?説得力ないよ。あんまりこういうこと言うの嫌だけど…皆に知られたくないんだよね?」 俺は軽く脅してみた。 先生は「ぐっ…」と口の中で呻くと、しばらく考え、おずおずとこう言った。 「いくら出してくれる?」

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