11 / 13

第11話

500万円の借金を肩代わりしてもらう代わりに紫音くんの恋人(三年間限定)になったわけですが、今日の卒業をもって、その約束も終わった。 「紫音くん、今日までありがとう。色々あったけど、楽しかったよ」 本当に色々あった…。主に生徒会だけど。 特にあの三人(黄央くん、白馬くん、浪くん)に弄ばれ、大変だったけど、何とか乗り切った。 「もも、あの三人の相手は大変だったでしょ。あの三人は中等部の頃から問題児だったから、高等部で問題起こさないか心配だったんだ」 「何となく分かるよ…」 「だから、ももがあいつらにイタズラされてるの嫌だった」 紫音くんは僕をきつく抱き締めた。 「ちゃんと守ってあげられなくてごめんね」 「大丈夫だよ…ああいう扱いは慣れてるし」 僕は笑いながらそう言った。 そうだ。DV男と付き合ってた時なんて、毎日殴られてたし、ギャンブル依存症男なんて、毎日来ては財布からお金を抜き取っていた。 「それに、紫音くんも僕の写真買ってたんでしょ?知らなかったよ」 写真とは黄央くんが撮った、僕の恥ずかしい写真のことである。 「あーあれは、いつも俺のロッカーに入れられてて…『他の生徒にも売ろうかな』とか言われたから全部買い取ってたんだよ」 「え!?全部って、あれを全部!?三年間!?」 「もちろん。恋人の恥ずかしい写真なんて、他の奴等には見せられないよ。…涼は買ってたみたいだけどね」 相変わらず爽やかな笑顔でさらりとすごいことを言ってのける。 そういえば、黄央くんは紫音くんと僕の関係を知ってた。それも関係あるのかな? 「ねぇ…紫音くん、黄央くんって僕らの関係、知ってるんだよね?」 「涼以外の生徒会の役員会は知ってるよ」 「え!?」 「あいつらは中等部時代、結構めちゃくちゃなことしてたから…もものことも傷つけるんじゃないかと思って、一応牽制の意味を込めて」 めちゃくちゃ恥ずかしいことはされたけど…。確かに暴力や表だった誹謗中傷はなかったな。 「それに、あいつらは自分の家柄が俺の家柄より低いことを知ってるから、俺や、ももにも脅しとかはなかったでしょ?」 「なかった…」 エッチなことは散々されたけど。 紫音くんは僕の頬を両手で包んだ。 「ねぇ、もも。俺にも思い出くれる?」 言わんとしていることはわかった。 「うん…いいよ」 これで、紫音くんと触れあえるのも最後…。 そう思うと胸の中がちくりと痛くなった。 生徒会室の奥、本棚を動かすと秘密の部屋がある。 内装はあのバーと同じ、モノクロの壁紙に、白を基調とした家具。大きなベッド。 僕らが初めて体を重ねたあの部屋に似せている…というより全く同じだ。 ここで、僕らはいつもセックスをしていた。 紫音くんはベッドに僕を押し倒した。 「あれから3年ちょっと経ったなんて、信じられないな」 紫音くんは僕のネクタイをするりと外しながら、そう呟いた。 「紫音くん、背もすごく高くなったよね。高校に入ってからかな…たけのこみたいに」 「たけのこって…」と紫音くんは僕の冗談にクスクス笑いながら、僕の首筋に顔を埋めた。 金色の髪とアメジストのような紫色の瞳はいつまでも変わらない。 ワイシャツのボタンを外し、ワイシャツを脱がされた。 胸の突起は、これから触れられることを期待するように立ち上がっていた。 紫音くんはその突起に舌を這わせながら、もう片方の突起をぎゅっと摘まんだ。 「っはぁ…」 吐息のような声が漏れてしまう。 「ズボン…っんぅ…脱がさない、のぉ…?」 「もものエッチ」 そう言いながら、紫音くんは胸の愛撫を止めてくれない。 「今日はじっくりする…。最後だから」 『最後だから』 その言葉を何度も自分の中で反芻する。 ずっと前から分かっていたことなのに、どうしてこんなに胸が痛むんだろう。 これまで、たくさんの人と繋がってきた。 ごみのように捨てられても、オモチャのように扱われても、それでも「また新しい人を見つけよう」って思えた。 紫音くんから『最後』だなんて言葉を聞くと、僕の心の中は針でチクチクとつつかれるような痛みを感じた。 その針でつつかれた穴はどんどん大きくなっていくように、ぽっかりと寂しく穴があいていった。 僕はその寂しさに耐えきれず、自分のズボンのベルトを緩め、パンツごと下ろした。 「もも…?」 「お願い…っ!紫音くん…、もう入れて…」 この寂しさを抱えながら、じっくりなんて耐えられない。 いっそ、早く終わらせて欲しい…。 今までの彼氏のように、ごみのように捨てて欲しい。 そうしたら、僕は紫音くんを忘れられるのに…。

ともだちにシェアしよう!