21 / 32

第21話 僕、淫魔です!-Ⅶ- -2-

―……まぁ、そんなこんなで……僕達は夕方に館を出発した。 そしていざ会場の古城に着いたら、すでにパーティーは始まっていて、凄い事になっていた。 集まった人々は全員仮面と普段は着ないような服装で気ままにダンスや談笑したり、お菓子のやりとりをして楽しんでいる。 ちなみにここに集まっているのは18歳以下は居ない。"大人"扱いを受けている人ばかりだ。 ……え? 僕? 僕は記憶が無いから、年齢不詳だよ! あはは! ま、仮面を着けているから、年齢確認は"都合上"的な意味合いが強いんだと思うから、僕は気にしないで楽しむんだ~。 「副団長……! スゴイ……! 色んな服装の人がたくさん居る!!」 「……赤頭巾、ここでは俺の事は"狼"と。あと、自由にして良いけど、なるべく俺から離れない様に……」 「うん、分かった! 狼さん!」 そう言って僕は副団長さんの腕に身を寄せた。 副団長さんは僕がそうする事を許してくれて、二人で歩み始めた。 歩きながら周りを見ると、僕もそうだけど"ハロウィン"という感じよりも"仮装パーティー"な雰囲気が強いと分かってきた。 まぁ、オバケや怪物……ではなくとも、色んな姿が見れて面白い。 そして僕が周りを観察しながら歩いている内に、副団長さんは仮面がありながらも綺麗だと思わせる魔女とチェスを楽しんでいる猫耳の男性の前に来て、何だか挨拶している。 猫耳さんは少し恰幅が良くなっている様だけど醸し出している雰囲気に、僕の淫魔としての何かが反応した。 ―この人、"極上"の部類の人だ。……でも、すごくすごく、"危険"!! 僕が自分が感じた事に思わず"ゴクリ"と喉を鳴らした時、横から「とりっくおあとりーと!」と朗らかな若い男性の声がした。 慌ててそちらを見れば、手での支えが必要な位の大きなカボチャを頭にかぶり、袖が異様に長いピエロとチュニックを足して二で割った様な服を着た背の低い人物が立っていた。 ……これは、"パンプキン・ヘッド"……? 「ね、"とりっくおあとりーと"! お菓子をくれなきゃ、イタズラするぞぉ!! カボカボー!!」 「ぁ、ああ、あ……ッと!? は、はい! お菓子、ですよね!?」 僕はもう一度言われて慌てて籠からクッキーの袋を取り出し、カボチャ頭さんに渡した。 ところで……"カボカボ"とは……? 「ありがとぅ! ……わわわ、これは"ぱんぷきん・クッキー"? 我輩、共食いですかー!? ブラザー!!」 「……共食いな訳無いだろう……。……忙しないヤツだな、お前は……。ま、お陰で退屈せんがな」 「むぅ!? では、魔女さま、魔女さま、このクッキー、我輩と半分こしましょ、そうしましょ♪」 「あら、わたくしと半分にして宜しいの?」 「良いのです。今日の我輩はケット・シーさまではなく、魔女さまの直属カボチャゆえ~。 それにケット・シーさまは我輩にイジワルです! べー! べべべー!! チェスも我輩は魔女さまびいきですゆえ、ここで甘いもの補給、です! 魔女さまッ!」 「ふふふ……ありがとうございます。では、わたくしの半分をケット・シーさまへ……。はい、あーん……」 「ははッ……さすがはワシの見込んだ魔女だな……! お? このクッキー、なかなかだな……」 「ひぎゃ!? そんな手が! ……さすが魔女さまです~!! かぼぼ~~ん……」 ―……何だ、この流れは。 あ。でも、猫耳さんは"ケット・シー"の設定なんだ? ケット・シーは…………"猫の王様"……だっけ? ……お う さ ま ??? 「……赤頭巾、目の前の御三方を深く考えるな」 「は、はい、狼さん……!」 そして別れの挨拶をしてその場を辞し、少し歩いたら、今度はたくさんの人に囲まれてしまった。 どうやら最初は狼さんと話す事を目的にしてやってきた方々は、僕のブローチに気が付くと「トリックオアトリート」と声を掛けて来た。 当然と言えば当然だけど、副団長さんが男女に大人気なお陰で僕のクッキーは瞬く間に無くなって…… 「自由だ……」 自由の身になってしまった。 うん。副団長さんはまだ様々な人と会話をしていて、「せっかくだから何か好きな物を食べると良い。後で迎えに行くから」と言ってきた彼に従い、僕はブローチを外して料理の前に一人やってきた。 食事はビュッフェ形式で、綺麗に並べられた料理を好きに取り、立ったり座ったり……とにかく適当に好きに食べて良い様だ。 僕は普段は"普通"の食事はあまりしないのだけど、ここのはどれも興味が湧くなぁ~。 見た目が良いのもさることながら、単純に美味しそうなのだ。 せっかくなので、適当に食べてみようと思い、僕は手始めにローストビーフを皿に取り分け、口に運んだ。 「……!!!」 ほわー! このロースとビーフ……ンまい!! 中心の紅色の部分から肉汁がじゅわ、っとくる! じゅわっと! 後はフリッターの様な魚の切り身に、柑橘系のジュレがかかっているこの絶妙感……。小さなミントの葉っぱが爽やかだ。見た目と味にアクセント……なのかな? 他にもお皿に適量をよそって、次々食べてく。気になったのを、少しずつ……って、結構楽しいかも! でも、あまり食べ過ぎなのもと思い、僕はデザートに移った。 さて、僕の口内をシメる味は…… 「~~ッ! ッ!」 このパンプキンアイス、メチャクチャ美味しい!! そう、アイス! それにしてもこのアイス、わざと小さな氷が混ざっているのが、かえって良いのかな? しかも、上にはたっぷりのクラッシュナッツが……! 何種類使っているんだろう……。 お、お代わり……! これは、お代わり貰おう!! そして僕がお代わりのお代わりを幾度かして、今度はチョコレートアイスも盛ってから余裕で五皿目のアイスにデレデレでパクつき始めた時、ふいに声を掛けられた。 「―……赤頭巾はそのアイスがお気に召したのかな?」 「……?」 ……オオカミの仮装と仮面をしてる男性……。 「……はい、凄く気に入りました!」 「そうか」 ……何だろう。この狼青年から……微かに、あの"極上"さんと同じモノを感じる……。 でも、僕の本能の別なトコロから先程と同じ警報が同時に起きているから、この人物は要注意だ。 とりあえず"狼さん"だと副団長と被るから、"ウルフさん"と呼ぼう。 「では、"立って"、ではなくて"座って"ゆっくりと味わって食べたらどうだ? おいで、赤頭巾」 ウルフさんは僕にそう言うと、アイスが乗った皿を僕から取り上げ、手を掴んで部屋の窓近く設置されている座って休息出来る場所に連れて来た。 空いている場所に座り、僕はアイスの皿を返して貰えると思ったら、皿ではなくて飲みのを渡された……。アイス……。 「アイスを返して下さい」 「飲んだら返すよ」 「……何ですか、それ……」 ―……アイスを取られた時点で、副団長のところに戻れば良かったかな……? そんな事を考えながら、渡された微かにシュワシュワと音をたてている薄黄色の飲み物を口に含む。 僕はそれを口にしてから「あ」と思った。 これ……口当たりが良くて、甘く飲み易いけど…… 「……これ、お酒、だ……?」 「ああ、酒だ。……なに、ここに居るんだ。飲めるだろ?」 「……ぅ、ぁ、う……はぃ……」 飲める……と思うけど、実際は初めて飲んだ……。 そしてウルフさんは、今度はちゃんと僕にアイスを返してくれた。 アイスを食べながら、お酒を口にする……。 お酒が無くなればウルフさんに取り替えられ、僕は新たに置かれるまま彼と会話をしながら飲んでいた。 でも僕はアルコールでだんだん体が熱く、重くなってきて……。 いつの間にかウルフさんに肩を抱かれる形で、お酒を飲んでいた。すると…… 「……赤頭巾、向こうの部屋で俺と"仮面"を取らないか?」 「……?」 そして更に酔い始めてぼんやりとした意識の僕に更に身を寄せ、ウルフさんは…… 「赤頭巾は……あの"狼"の所のシスターだろ? くくっ……」 「!」 う……ウルフさんにはバレてるみたいだ……。 ウルフさんが指した"狼"はエスト副団長で、彼は人の間を縫いながら頭をたまに左右に動かして……僕を捜してくれているのかな……? そんな事をぼんやり考えていたら、ウルフさんに肩を揺すられ、「向こうに行こう」と再度誘われた。 ……バレているみたいだけど、僕……どうした方が良いのかな……? お酒でふわふわして……いつも以上に分からないや……。 そして僕が返事を迷っていたら、副団長が僕を見つけた様で真っ直ぐにこちらにやってきた。 その時、遠目だけど仮面の下の瞳の色が"赤"から"青"に変わったのは……僕の気のせい? エストは僕を捜すのに"力"を使ってくれた? 「……赤頭巾……捜しましたよ。その方と一緒だとは……驚きました……」 「狼……さん……」 副団長は言いながら僕に「早くこちらに」と言ってきた。 僕は今度は迷わずに、ウルフさんから副団長さんに移動しようとして…… 「???」 「行ってはダメだ、赤頭巾」 ウルフさんに腰周りに抱きつかれ、拘束されてしまった……。 「―……狼、俺から赤頭巾を連れて行くな。この赤頭巾が欲しい」 「……申し訳有りませんが……。この赤頭巾は個人で縛ってはいけないのです。……これは、貴方の身を守る言葉でもあります」 「……俺の身を守る事に繋がる? ……まぁ、それは置いてだな、"自由"の事を言うのなら、……お前達の館で縛っているではないか……」 「何を仰るかと思えば……。我々は全員でこの赤頭巾を可愛がっているし、赤頭巾もそれを望んで居るから良いのです。……では、失礼します」 最後は一方的に言い放つと、副団長はウルフさんから僕を引き剥がして歩き出した。 僕は何だか気まずい空気な気がして、ウルフさんに「ごめんなさい。行きません」と早口で言うと彼は溜息と共に、「……分かった。突然で悪かったな……」と返してくれた……。 こ、これで何となくだけど、大丈夫、だよね? ね? そして僕は前を……副団長さんの背中に視線を移したんだけど、後方から「嗚呼ッ! 今夜あの愛らしい赤い小鳥を捕まえられなかったとは、お可哀相に……! かぼ~ンかぼ~ン」「うるさい! このカボチャ頭!」と聞こえてきた……。 ……振り返らないで置こう……。うん……。

ともだちにシェアしよう!