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『カナ』

あれから他のヤツらは、俺が怖いのか余所余所しくなった。 まあどうでもいいけど。 それと同時に奏斗への暴力もなくなった。 俺に近づかなくなり、奏斗にも近づかなくなったようだ。 別に何とも思わない。 俺は奏斗が一人になればそれでいい。 奏斗の周りに人がいなければそれでよかった。 奏斗は相変わらず虚ろな目をしていた。 でももう俺にあの目を向けなくなり、それが何故なのか分からない。 あの日もそうだった。 心ここにあらず、という感じで。 俺を見てはいなかった。 それが無性に腹が立った。 しばらく何もない日々が続いた。 今日だって何も起こらない、はずだった。 見ると、校門から少し離れたところに車が止まっている。 「は…?」 俺は思わず口にしていた。 その車から奏斗が降りてきたから。 なんで。 なんで奏斗が? 俺が見ているとは知らない奏斗は運転席にいるヤツにお礼を言っていた。 笑顔で。 なあ。 なんで笑ってるんだよ。 なんであの頃みたいな顔で笑ってるんだよ。 奏斗が校門に向かおうとした時、運転席のヤツが降りてきた。 爽やかで感じの良さそうな男。 落ち着いた雰囲気から年上だと分かった。 「カナ!」 は? 今、「カナ」って……「カナ」って言った? そして奏斗が振り返り、二人はキスをした。

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