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あの日から俺はカナを見ることが怖くなった。 あの後、カナは教室に現れなかった。 あの酷い状況だ。 授業に出られるはずがない。 心配になり様子を見に行こうかとも思った。 でも、出来なかった。 あんなことをしたのは、他の誰でもない。 この俺だ。 見に行ってまたあの憎悪の、今までより強い目を向けられたら—。 そう思うと俺の足は地に根を張ったように動かなかった。 前はそんな目で見られても、こんなことはなかった。 寧ろ、興奮や優越感さえ覚えた。 自分のことしか見えてない。 カナの心には俺しかいない。 そんな風に思っていた。 でも今はそんなもの感じない。 カナにその目を向けられることは、今の俺にとって恐怖に近かった。 幼い頃のカナは綺麗で、目は澄んでいた。 綺麗で、汚れを知らないような。 今のカナは綺麗でも、それは儚く知らない間に消えてしまいそうで、澄んでいた目は色を濁している。 『ナオ』 あの透き通るような声で名前を呼ばれる日はもう二度と来ない。 カナの顔をちゃんと見たのはあの日が最後だった。 虚ろな顔をしていて、綺麗な形の整った唇から出ていた血。 あの顔が頭に焼き付いて離れなかった。 そうしてしまったのは俺だ。 俺のせいだ。 全部、自分でやったことだ。 分かっていても弱い俺は何もせず、ただ心の中で後悔することしか出来なかった。
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