25 / 111

二人は幸せそうに笑い合いながら商品を選んでいた。 なんで今更こんな気持ちになるんだ。 なんでこんなに胸が痛むんだ。 早く、早く目を逸らさなければ。 そう思っても俺は動けずにいた。 そうしているとカナと目が合った。 その瞬間、俺は店を飛び出した。 「…倉橋くん?!」 呼び止める声が聞こえたが、構わずその場から離れた。 「はあ…はっ……どうしたの?急に…っ」 「…なあ、なんで俺だったの」 「……え?」 「そんな接点もないのになんで俺を誘ったの?なんで俺なんか…」 そうだ。 ずっと不思議に思ってた。 なんで俺だったんだろう。 なんでこんなヤツを誘うんだろうと。 「…倉橋くんが、優しい人だから」 は………? 優しい? 俺が? 「……何言ってんの?俺が優しいとかそんな…」 何言ってるんだ、この子は。 「…あのね。ホントに「そんなことで?」って思うようなことなんだけど…日直でノートを職員室に持って行かなきゃいけない日があったの。 普通クラスの棟を通らなくちゃいけなかったんだけど…あたし、普通クラスの人たちになんとなく怖いイメージ持ってたから、ちょっと内心ビクビクしてた。 そしたらいきなり男子に話しかけられて、行かなきゃいけないって言っても聞いてくれなくて…その時倉橋くんが助けてくれて、ノートを持って行くのも手伝ってくれたの。…ホント、それだけなんだけどすごく嬉しかった」 全然覚えてない……。 ……ていうか、そんなのただの気まぐれだったと思うし……。 「……悪いけど、全然覚えてない。それに俺、優しいヤツじゃないよ。……むしろ最低だし」 最低だ。 優しさなんて持っていない。 ただの卑怯者だ。 「……あたしは、倉橋くんとの関わりが少ないから知ってることも少ない。倉橋くんが自分で言う通り、本当はいい人じゃないのかもしれない。でもきっと根は優しいんだよ、倉橋くんは」 なんで彼女はこんなことを言うんだろう。 俺が今までしてきたことは最低以外の何物でもないのに。 「………『さき』って名前さ…なんて書くの?」 「…花が咲くの『咲』」 そう言って彼女はまた、花が咲いたように笑った。

ともだちにシェアしよう!