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咲
二人は幸せそうに笑い合いながら商品を選んでいた。
なんで今更こんな気持ちになるんだ。
なんでこんなに胸が痛むんだ。
早く、早く目を逸らさなければ。
そう思っても俺は動けずにいた。
そうしているとカナと目が合った。
その瞬間、俺は店を飛び出した。
「…倉橋くん?!」
呼び止める声が聞こえたが、構わずその場から離れた。
「はあ…はっ……どうしたの?急に…っ」
「…なあ、なんで俺だったの」
「……え?」
「そんな接点もないのになんで俺を誘ったの?なんで俺なんか…」
そうだ。
ずっと不思議に思ってた。
なんで俺だったんだろう。
なんでこんなヤツを誘うんだろうと。
「…倉橋くんが、優しい人だから」
は………?
優しい?
俺が?
「……何言ってんの?俺が優しいとかそんな…」
何言ってるんだ、この子は。
「…あのね。ホントに「そんなことで?」って思うようなことなんだけど…日直でノートを職員室に持って行かなきゃいけない日があったの。
普通クラスの棟を通らなくちゃいけなかったんだけど…あたし、普通クラスの人たちになんとなく怖いイメージ持ってたから、ちょっと内心ビクビクしてた。
そしたらいきなり男子に話しかけられて、行かなきゃいけないって言っても聞いてくれなくて…その時倉橋くんが助けてくれて、ノートを持って行くのも手伝ってくれたの。…ホント、それだけなんだけどすごく嬉しかった」
全然覚えてない……。
……ていうか、そんなのただの気まぐれだったと思うし……。
「……悪いけど、全然覚えてない。それに俺、優しいヤツじゃないよ。……むしろ最低だし」
最低だ。
優しさなんて持っていない。
ただの卑怯者だ。
「……あたしは、倉橋くんとの関わりが少ないから知ってることも少ない。倉橋くんが自分で言う通り、本当はいい人じゃないのかもしれない。でもきっと根は優しいんだよ、倉橋くんは」
なんで彼女はこんなことを言うんだろう。
俺が今までしてきたことは最低以外の何物でもないのに。
「………『さき』って名前さ…なんて書くの?」
「…花が咲くの『咲』」
そう言って彼女はまた、花が咲いたように笑った。
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