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悪夢

目の前を見ると、カナがいた。 幼い頃の姿で澄んだ瞳をしていて、綺麗な笑顔をこちらに向けている。 「ねえ、ナオ。俺、ナオのこと好きだよ。一緒にいると楽しいんだもん」 カナ、俺もだよ。 俺もカナのこと好きだよ。 でも、カナの「好き」と俺の「好き」は違うんだ。 それでも、一緒にいたいから。 「俺も。カナは友達、親友だよ」 「 嘘つき 」 「え」 気づくと今度は傷だらけで立っていた。 着ている服も汚れている。 「嘘つき」 はっきりと、そう聞こえた。 どうして? どうしてそんなに傷だらけなんだ? 何があった? 「カナ!どうしたんだよ、その傷!」 「お前のせいだ」 駆け寄ろうとすると、突然どこからか声が聞こえてきた。 誰だ…? 「信じてたのに」 カナが冷たい声で言った。 「カナ…?」 その途端、「お前のせいだ」と色々な声が俺に突き刺さる。 俺のせい? 「俺はカナを傷つけてなんかいない!」 そう言っても全く声は止まず、どんどん大きくなっていく。 俺がやった? 違う。 そんなことしない。 「違う…」 「違わない」 顔を上げると、カナの後ろに誰かが立っているのが見えた。 あれは……俺だ。 満足しているようにも見える表情を浮かべている。 「お前がやったんだ」 「何言って…」 「友達や親友だなんて嘘だ。俺はそんなこと思っていない」 「…違う」 「違わない。お前はカナが欲しくて堪らないんだろう?傷つけてもいいと思ってる。寧ろ傷つけたいんだ。傷つけてメチャクチャにしたい」 「違う」 「嘘つくなよ。俺とお前はカナを傷つけてでも手に入れたいんだ」 「違うって言ってんだろ!お前と一緒にするな!!」 「俺はお前だよ。お前の本当の姿だ」 「はっ…!」 部屋の天井が見え、夢を見ていたんだと分かった。 「……っ」 もう嫌だ。 もう本当に何も考えたくない。 俺は汚い。 その夜、俺はしばらく眠れなかった。

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