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疾走

その病院は行ったことは無いが知っていた。隣の駅の近くにある病院だ。 電車に乗るつもりだったが、 「あ…?」 定期も財布も全部置いてきたことに気づいた。 よく考えたら、病院名を聞いた瞬間に走り出したから手ぶらなのは当然だ。 「ちッ…!」 もちろん電車に乗った方が早いが、走って行ける距離ではある…。 そう思い、また走り出した。 「…ッ…ハッ……」 無我夢中で走った。 今までカナと顔を合わすのだって出来なかった癖に、身体は勝手に動いていた。 俺、なんで今こんなに必死になってるんだろう。 なんで今更? 何に必死になってる? そんな考えが頭を過ぎった。 でも、ちゃんとした答えなんて出てこない。 ただ、怖いんだ。 カナがいなくなったら。 カナが、もし、死んでしまったら。 自分が傷つけて追い詰めたからー? …そうなのか。 罪悪感に押し潰されそうになるから。 それを恐れてるから? そうなのかもしれない。 でも、それ以上に怖いのは喪失感。 カナがいなくなったらって、想像しただけで悲しくて、虚しくて、恐ろしい。 全部、俺の為。 結局俺は、カナの気持ちなんて考えていないんだ。 それでも、やっぱりどうしようもなくて。 どこまでも勝手な人間だ。 勝手で、勝手なことを願うんだ。 お願い。 もう傷つけないから。 もう泣かせないから。 カナ。 お願い。 死なないで。 それだけを思い、病院へ走った。

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