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『きたみ なお』…。 同じ名前……。 それに… 「なんで名前…」 「ああ…、カナから少し聞いたことがあって」 目の前にいるこの人は、初めて見た時と同じような爽やかな雰囲気を醸し出していた。 整った顔、優しげな目。 「誠実」なんて言葉も似合いそうだ。 人当たりも良さそうで、どんな時でも冷静で。 好きな人を大切にする。 —俺とは大違い。 「もしかして、カナに会いに来たの?」 「…あ、」 声をかけられてハッとした。 そうだ。 この人に言えば、会えるか…? 「そうです、アイツに会わせてくれませんか?!」 でも、彼は首を横に振った。 「残念だけど、それは出来ない」 「……なんで、」 どうして。 無理なのは分かる。 分かってる。 でも、アンタだって他人だろ? 親族じゃないはずだ。 「……家族の人じゃないと会えないんじゃないですか?」 あ。 今の、嫌な質問かも。 こんな時までこんなこと言って…ガキみたいだ。 「カナのご両親は今、海外にいるんだ。事故のことは伝えたんだが、さっき連絡が来て、向こうの天候が悪くて飛行機が遅延したそうでね…明日の夕方から夜の間に着くことになるらしい」 …海外にいるなんて知らなかった。 聞かされた途端、遠い場所にいるカナがさらに遠くなった気がした。 俺は、本当に何も知らないんだって。 「……あの、」 「大丈夫。カナのことは俺がちゃんと見てるから、安心して」 そう言った彼は笑っているのに、目と言葉にはどこか棘が含まれていた。

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