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「大切」の仕方 2 咲side
もう、いいじゃない。
「もう…」
そんな風に言わないで。
「もう、思い詰めないで」
あたしがいる。
「倉橋くんは、十分頑張ったよ」
あたしが…
「だから、自分を責めないで」
あたしを見てよ。
「……」
彼は何も言わない。
頑張ったって何を?
彼が何を思って、何をしたとか、あたしは知らない。
知らないのにそんなことを言った。
でも思い詰めた表情を見たら、想いは大きくなった。
あたしはあなたが好き。
だからあたしを見て。
あたしの所に来て。
受けとめるよ。
だけど…
「…でも、俺はあいつに酷いことをしてきた。謝ったって、伝えたって何も届かないって分かってる。分かってるのに…っ」
羨ましい。
こんなに想われてるなんて。
あの人の言葉を思い出した。
『あいつは平気で他人を傷つけるヤツ』
「嫌い」という感情を全面に出して、酷く泣きそうな顔をしながらそう言った彼。
その時、なんとなくだけど倉橋くんが自分のことを最低だと言っていた理由が分かった気がした。
彼が、ずっと後悔していた相手はー。
「…っ」
無理…なんだ。
薄々感じてたけど…あたしじゃ、ダメなんだ。
入りこめない。
「倉橋くん…その人にちゃんと伝えて。自分の気持ちを」
応援するなんて、変な感じ…。
「…でも、」
「倉橋くんはその人のこと、今でも大切に想ってる?」
聞くまでもないことを聞いた。
彼は真剣な表情で答える。
「…大切だ。すごく大切なんだ」
「その気持ちがあれば充分だよ。きっと伝わる」
「霧島…」
「早く、行ってあげて」
本当に、倉橋くんは大切に想ってた。
想って、想って。
間違えたんだ。
「今度はちゃんと大切にしてあげて」
その日は、涙がたくさんでた。
泣いても泣いてもおさまらなくて。
でも彼が「ありがとう」と言って去っていった時、悲しさにほんの少しだけ嬉しさが混じった。
あたしは、少しでも彼の力になれたかな。
本当に、あなたのことが、好きでした。
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