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諦められない想い 北見side
俺は君に何を与えただろう。
雨の中、汚れた制服で傘もささず、フラフラと歩いている少年は、ただ、その「動作」をしているだけのように見えた。
見ているこちらが危ないと思う程。
すると、中年の男性が彼に近づいた。
「ちょっとだけ…いから……お金は…」
その言葉が聞こえた瞬間、思わず二人の間に入っていた。
「すみません。この子と待ち合わせしていたんですが、何かご用ですか?」
そんな言葉が口をついて出た。
中年の男性は分かりやすいほどに目を泳がせ挙動不振になり、逃げるようにそそくさと去って行った。
「君、大丈夫?ああいうのには気をつけないと」
「……すみません」
少年は俯いたまま、小さな声でそう言った。
やはり傘は持っていない様だった。
「これ、使って」
「えっ……でも、」
「別にいいよ。あげる」
自宅までそう遠くないし、 なんとか行けるだろう。
そう思い、走ろうとした。
でも、すぐに立ち止まった。
「…よかったら、家においで」
どうしてあの時、そんなことを言ったのか分からない。
声をかけていなければ、こんな風に想わなかった。
君は自分で気づいていないんだろう。
俺を彼の身代わりにしていることに。
『ナオ…どこいくの…?』
『どうして俺から離れようとするの?』
『お願いだから…』
君は俺と「ナオ」を重ねていた。
惨めだった。
声をかけなければこんな気持ちにならなかったのに。
そう何度か考えたこともあった。
今でも彼のことは許せない。
カナをあんな風に傷つけて。
会わせてくれだなんて、よく言えたものだと思った。
でも、あの目は違った。
必死で、少し泣きそうで、本気で心配している様だった。
本当に彼はカナを傷つけていたのか、疑念が少し生まれるほどに、そう思ってしまう程彼は必死だった。
もしかしたら、会わせてやるべきなのか。
でも、今のカナにとってはどうだろう。
いいことではないはずだ…。
でも、やっぱり、向き合うべきだ。
カナがきちんと自分の気持ちに向き合って、それで答えを出してくれたら、それだけでいい。
それに、
「何度も、本当にごめんなさい…少しでいいんです、顔を見るだけでもいいんです。お願いします」
君も簡単に諦められるような想いじゃないんだね。
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