57 / 111
直 5
母親にこんな質問をされたことがある。
「奏斗は好きな子とかいないの?」
「……え」
「特に意味はないけどね、どうなのかなーって。そろそろそういう年頃かと思ったから」
「……いないよ」
「あら、そうなの?まあ、女の子のことで困ったらお母さんに言いなさい。相談のってあげるから」
「………別にいらないよ。お母さん、そういう話がしたいだけでしょ」
「ふふっ、バレちゃった?」
女の子のことで………か。
母親は当然のように「女の子」と言った。
こういう話をする度に嫌でも異常だということを思い知らされた。
『お母さん、好きな男の子はいるよ』
母親に言えないことに、自分が異常なことに、申し訳ないと感じていた。
ある時からナオの様子が変だった。
普通に今まで通りみんなと話したりしていたが、どこかいつもと違った。
友達と話しながら教室移動をしていた時、ふと後ろを見るとナオがこっちを見ていた。
その顔はいつもの笑顔ではなく、どこか怒っているような、少し怖い顔だった。
「どうしたの」と聞いてみたが何もないとナオは言った。
「でも…」
「本当に何もないから」
遮るようにそう言われた。
ナオは俺の目を見なかった。
俺は何かしてしまったんだろうか。
ナオに嫌われた?
そう思うと俺の心は恐怖と不安で包まれた。
休み時間、また友達と話しているとナオが一人の腕をいきなり強い力で掴んだ。
すごい形相だったのを覚えている。
「痛いって、倉橋!」
掴まれた友達がそう叫ぶと、ナオはハッとしたような顔でその腕を離した。
みんなは驚いていたが、すぐに笑ってまた話し始めた。
その時も俺とナオの目が合うことはなかった。
そして、
俺はこの頃から一人になった。
ともだちにシェアしよう!