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地獄 4
もう、そこからは地獄だった。
教科書には「ホモ」や「おかま」、「しね」とまで書かれた。
給食には「ふりかけ」と称してチョークの粉を入れられる。
掃除の時間では濡れた雑巾を投げつけられたし、目が合えば絶対何か言ってくるのが当たり前。
さすがに目立ちすぎるかもと思ったのか、もうトイレには連れ込まれなくなった。
頻繁にずぶ濡れで帰るとなると、さすがに誤魔化しきれない。
そこは少し助かったかもしれない。
あの時は、季節が夏だったため、言い訳は考えやすかった。
「あれ?奏斗、なんでズボン干してるの?」
「水遊びしてて、びしょ濡れになっちゃった」
あの日聞かれて俺がそう答えると母親は納得したらしく、「もう。遊ぶのはいいけど、気をつけてよね」と小言を言われただけで終わった。
先生達が、俺に起こっている事を知っていたのかどうかは、分からない。
知らないフリをしていたのかもしれない。
でも、俺は何も言わなかった。
相談したとしてもなんて言えばいい?
もし相談して話し合いになったら。
そこでアイツらが、俺がホモで気持ち悪いとか言ったら?
そう考えると、アイツらだけじゃなく、先生や両親の嫌な顔まで頭に浮かんだ。
それを考えただけで、泣きそうになった。
中3の頃には、抵抗はしても、もう悲しいとも思わなくなっていった。
ただ、早くここから出たかった。
相変わらず周りは俺に散々悪口を浴びせていたが、時間が経つにつれてどうでもよくなった。
俺は、一人だけに嫌悪を抱くようになった。
そいつは手を出すことはあっても、それは少なかった。
でも、いつも嗤っていた。
あのトイレに連れ込まれた時も、俺がみんなに殴られている時も、俺が虐げられている時、あいつはそこにいて、ずっと嗤っていた。
そして普段は、楽しそうに過ごす。
俺に向けていた「嘘の笑顔」と同じ顔をしながら。
どうして、アイツは笑っている?
どうして、俺はこんな毎日を過ごしてる?
どうして、こんなにも違う。
アイツの何もかもが、腹立たしい。
許さない。
俺は、一生忘れないから。
直。
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