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侵される

最近、何も起こらなくなった。 ゴミ箱扱いされたり殴られることも、悪口を言われることもない。 何かあるかもしれないと慎重になったけど、本当に何も起こらない。 気安く話しかけてくることもなく、時々見られてるような感じ。 俺を好き放題殴っていた奴らは、随分おとなしくなっていた。 直だけは一人でいることが多くなり、特にそれを気にしている素振りも無かった。 仲間割れでもしたのか。 まあ、俺には関係ないけど。 何にしたって、もう暴力を振るわれることは無さそうだ。 何もない、平穏な毎日が過ぎて、身体中にあった傷は消えていった。 風呂に入っても、全く痛みを感じない。 痣も、どんどん小さくなった。 「もうほとんどなくなったな」 背中をなぞられ、そう言われる。 二人で入る浴槽は狭く、囲いのように思えた。 「うん…汚ない身体、もう見せずに済む」 「汚なくない。カナはずっと綺麗なままだ」 北見さんは、そう言いながら後ろから抱き締める。 「でも、傷だらけの身体を抱くよりこっちの方がいいでしょ?」 目の前にある手の甲にキスをした。 「確かにそうかもしれないけど、傷があってもそう思ったことはないよ。カナ自身が綺麗っていうのかな…」 「ふふっ、なにそれ」 ………綺麗、か。 そういえば、昔も誰かに言われたような…。 いつだっけ……。 ぼんやりと考えていると、首の辺りがピリッと痺れた。 浴室にリップ音が響く。 北見さんが首や耳に唇で触れ、その度に触れられた場所は熱を持つ。 「……ここでするの?」 「明日学校だろ。今日は泊まらないだろうし、明日から連勤って言ってたから、少しでも充電しておこうと思って」 「…いいよ、しようよ」 俺がそう言うと、少し驚いていた。 でもすぐに口の端を上げて、意地悪そうな表情になる。 「どうしたの。学校の前日はしないんじゃなかった?」 「…こんなんじゃ帰れない」 触るなら、もっと触って欲しい。 「ふっ、ごめん。責任取るから…」 「ん…」 ゆっくりと舌を絡め合う。 パシャン、とお湯の揺れる音がした。

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