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侵される 2
翌朝、北見さんに車で送ってもらった。
こういう朝もいいかもしれない。
「な…なに?そんなに見られると恥ずかしいんだけど…」
確かに、恥ずかしそうな顔。
少し視線が泳いでいる。
無意識のうちにじっと見つめていたらしい。
「なんか、こうやって一緒に通勤と通学出来るの…いいなって…」
「ああ、確かに今までそんなこと無かったからなぁ。こういうのも新鮮だな」
北見さんは、そう言って楽しそうな笑顔を浮かべた。
「あ…カナ、今日体育の授業ある?」
「ないけど…なんで?」
「よかった…」
聞かれた理由が分からず聞き返すと、何故かホッとした様子だった。
「でも、一応気をつけてね。見られないように」
そこで丁度信号が青に変わり、車は進みだした。
結局何だったのか分からないまま、学校に着いてしまった。
「ありがとう、送ってくれて」
「どういたしまして。また連絡するよ」
「うん、……行ってきます」
久しぶりに口にした言葉。
なんだか背中がむず痒くなった。
恥ずかしくなって、足早にその場を去ろうとした時、
「カナ!」
いきなり呼ばれたから、ドキっと心臓が跳ねた。
目の前には北見さんの顔があって。
それは一瞬だった。
離れた時、唇に残った感触でキスされたんだと分かった。
「いってらっしゃい」
優しい笑顔を見て、身体が熱くなる。
自然と口元が緩む。
北見さんと別れてから、ここが学校の前ということを思い出し、慌てて周りを見渡す。
でも、変わった様子は無い。
学校の前とはいえあまり人が通らない道だし、キスだって一瞬のことだったから、気づかれなかったのかもしれない…。
………気づかれたって別にいいや。
元々、あんな目に遭ってたんだ。
今更そんな……。
「いっ…!」
いきなりグッと後ろから引っ張られた。
なんだ?
俺の腕を掴んでいたのは、直だった。
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