77 / 111
痕
消えてしまいたい。
まだ殴られた方がマシだった。
もう出ないと思っていた涙も溢れた。
いつの間にか家に帰っていて、シャワーを浴びていた。
どうやって帰ってきたか分からない。
そもそも、今何時だ?
考えながら浴室を出ると、あちこちに制服が散らばっていた。
あ、思い出した。
気持ち悪くなって、帰って、シャワー浴びたんだ。
着ている制服すら汚いものに見えてきて、捨てるように脱いだ。
拾おうとシャツに触れて、さっきの感覚が蘇ってくる。
あいつが俺のシャツに触れた。
思い切り引っ張られて、ボタン外されて、弄られて、ズボンも下ろされて。
それで、それで—。
—バンッ!
洗濯機の蓋を勢いよく閉めた。
全部洗う。
全部消すんだ。
全部洗い流したいのに、身体には痕が残ってる。
擦っても取れない歯形の痕。
鏡を見ると、首筋にくっきりと付けられていた。
でも、歯形とは別の痕もそこにあった。
…何だこれ。
吸い付かれたような痕。
歯形と重なるように付けられている。
まさかこれも?と思ったが、噛まれた感覚しか思い出せない。
じゃあ、これは……。
『一応気をつけてね。見られないように』
もしかして今朝言われてたのは、このこと?
体育があるかどうかを聞かれたし…。
…そうか、痕のことを言っていたのか。
後ろの方にあるから気がつかなかった。
見られないようにって言われたけど、見られちゃったな。
「………」
そっと噛み跡をなぞる。
……物凄く怒ってた。
いつも余裕の表情で、俺のことを嘲笑ってたのに。
あんな顔、初めて見たかも。
あの顔………もう一度見てみたい。
あの余裕に満ちていた顔を、歪ませたい。
この赤い噛み跡を付けた時、どんな顔をしていたんだろう。
考えると、ゾクゾクした。
ともだちにシェアしよう!